【6】 ( ^ω^)ブーンが絶体絶命都市から生きて脱出するようです。

119 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/22(水) 23:34:55.06 ID:TLXuEH350
――ギコ――
同日 AM 10:12

倒れかけたビルというものはやはり恐ろしいもので、
そのいつ倒れてくるかわからない恐怖心のようなものを感じ、
ギコの背筋の悪寒はますます強くなる一方だった。

(,,゚Д゚)「……これじゃあ、どこから災難が降りかかってくるかわかんねえぞ」

独り言を呟きながら、だが警戒はおこたらぬようにギコは早歩きで進んだ。

視界の隅にちらつく宝石店の看板などを見るたび、思わず侵入し、
商品を片っ端から持って帰ってやりたいという気持ちも浮んだが、
それを必死に自制した。
なぜ自制するのか、自分でもよくわからないが、とりあえずそうした。

突然、遠くで何かの音がした。
耳をすますと、どうやら海岸沿いでまた地盤沈下が起こっているらしい。
足元がかすかに揺れているので、間違いないだろう。
嫌なことにビルのほうからぱらぱらと小さなかけらが降る音が聞こえてきた。

(,,゚Д゚)「これは急いだほうがいいかもしれんな」

早歩きだった足をもう少し速め、体は少しばかり宙に浮いていた。

121 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/22(水) 23:46:20.01 ID:TLXuEH350
島自体の崩落が始まっているということは、多分島全体もいつかは沈んでしまうのだろう。
だとすれば、この全く救助ヘリなんかが来ない状況というのは、
かなり絶望的なものではなかろうか。

だが端から順に沈んでいくのなら、島の中央付近に位置するニュー速グラウンドは
まだ安心できるはずだ。
そう思うと、少しほっとする思いもあった。

(,,゚Д゚)「……とにかく、さっさとVIP商事に……」

そう呟くギコが十字の大きな交差点に差し掛かったとき、
不意に遠くから声を掛けられた、気がした。

(,,゚Д゚)「な、なんだゴルァ?」

呼ばれた気がしたギコが体ごと左右にむけ、確認した。
何度か見回せど、やはり声を発する影はない。

勘違いしたのだろうと高をくくり駆け出そうとしたとき、また声を掛けられた。
声は少し大きくなり、どうやら勘違いではないようだった。

よく目を凝らして右を見た。
するとそこには背が高く痩せ気味の男が遠くで手を振りながら、走り寄って来ていた。

123 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 00:05:22.35 ID:STu6v6u20
ギコは警戒心を強め、身構えたが、
自らの持つ危険察知の気配が強くなることはなく、
どうやらあの男にはギコを害する気は持っていなさそうだった。

男がすぐそばまでやってきた。
思ったとおりの長身で、恐らくギコより20センチほどは頭が高い。
だがそのくせ、横幅はギコと対して変わらない。
絵に描いたような棒人間のように思えた。
かすかにタバコ臭さがあった。

( ´_ゝ`)「はぁはぁ……い、いきなりですまんが、助けて欲しい……」

男は開口一番、そういった。
走り回っていたのか、息は切れ切れで、切羽詰った様子だった。

(,,゚Д゚)「……助ける?」

この男、何者かに追われているのだろうか。
この災害によって理性が吹き飛び、野盗じみた行動を起こすものも
少なからずいることの心配をしていたが、どうやら実際にそれが起きたのだろうか。

(,,゚Д゚)「……悪いが、俺も命が惜しいんでな。危ないのは勘弁だぞゴルァ」

ギコがそういい残し、足早に去ろうとしたが、男はギコの手首を掴んで止めた。

( ´_ゝ`)「いやいや、危ないことじゃない……はずだ」

(,,゚Д゚)「どういうことだ?」

138 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:27:07.52 ID:STu6v6u20
( ´_ゝ`)「実はな……」

男は大体の事情を話した。
まず自分は兄者という名前であるということ。
連れの名前がジョルジュということ、そのジョルジュとVIP商事に向かうところで、
横倒れになったビルを通るのに、ジョルジュのほうが立ち往生していること。

( ´_ゝ`)「だから、一緒にロープのようなものを探して欲しい。
       何の礼も出来んが、一人じゃちとこの広い街中、
       探すのも手間取ってしまってな」

(,,゚Д゚)「VIP商事……そのジョルジュってのが、そこの会社員だってのか?」

( ´_ゝ`)「ああ、あいつは、そう言ってた」

それを聞き、ギコは考えた。
今ここで、自分が今から忍び込もうとしている場所の人間と会うのは得策ではない。
しかしこんな状況だ。そのジョルジュという男も命が惜しいはずだろう。
そのジョルジュに恩を作り、自分が手にする図面とやらの場所を聞き出すのも悪くはない。
だがジョルジュが恩を仇で返すような真似をするとすれば、
やはりここでこいつらを助けるのは、下策だと思う。

そこでギコは、この崩落寸前のビル群を思い出した。
そのVIP商事もこのビルたちと同様、探索中に崩れ落ちるかもしれないという危険はある。
探索にあまり長い時間をかけられない。
そうすると、やはり道案内人は必要となる。

140 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:38:44.59 ID:STu6v6u20
(,,゚Д゚)「……そのジョルジュってやつは、盗みをするか?」

ギコの突然のおかしな質問に、兄者は一瞬面食らった顔をしたが、すぐ頷いた。

( ´_ゝ`)「……まぁ、俺と一緒に自動販売機を破壊するような男だな。
       あ、もちろん、これは非常食確保のためだぞ。勘違いしないでほしい」

(,,゚Д゚)「……なるほど。ところで、タバコはあるか?」

( ´_ゝ`)「タバコ……セッターで良いなら」

兄者はそういうと、胸ポケットから一箱、ボックスのセッターを取り出した。
だが胸ポケットのふくらみは、まだあった。

(,,゚Д゚)「その箱ごとくれ。どうせ、もう一箱持ってるんだろ?」

( ´_ゝ`)「あ、ああ」

兄者は頷き、ギコに箱ごとタバコをよこした。

なるほど。ギコは理解した。

(,,゚Д゚)「とりあえず、その辺の店は大体調べたんだな?」

タバコをくわえながら、ギコはいった。
兄者は口の端を微妙にゆがめ、慣れない笑顔を作った。
ライターもポケットから取り出し、ギコに渡した。

141 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:44:54.36 ID:STu6v6u20
( ´_ゝ`)「ああ。だけど見落としもあるかもしれん」

(,,゚Д゚)「別にロープじゃなくてもいい。布を切り集め、つなげれば問題ない。
     そこの衣服店でいい。どうせはさみや結びやすい生地もあるはずだ」

二人は頷き、駆けて行った。

ギコはこう考えた。
ジュースの自動販売機を破壊したということは、自動販売機の破壊方法くらい認知している。
震災がおき、あれからもう丸一日ほど経った。

なのにタバコのケースが二つある。
日頃からタバコを二箱持ち歩く人間はいるだろうが、
そんなスモーカーが、一日経って、まだ二箱持ち歩いているのはおかしい。
どこかでそのタバコを補充したのだろう。

しかもこの男は、惜しげもなく丸々一箱差し出した。
元々あまり吸わず、ただ持ち合わせているだけだろうと、
金を払って買ったなら、少しぐらい躊躇するはずだ。
ということは、この男にとってこのタバコに、金銭的価値はあまりないということだ。

つまりこの男は、どこかでタバコを無賃で補充していたに違いない。
自動販売機の破壊法を認知しているのなら、恐らく自動販売機からだ。

142 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 01:48:46.27 ID:STu6v6u20
話からすると、ジョルジュという男と知り合ったのは昨日のうちということになる。
タバコも二箱持ち歩いているとなると、
昨日の夜、もしくは今日の朝から今この男とギコが出会うまでの時間に得たのだ。
だがこの男の挙動からすると、ジョルジュが立ち往生した後に自動販売機を壊したとは考えにくい。

つまりそれを知りながら見過ごす人間、それがジョルジュという男となる。

このジョルジュという男は、察するに、結構大雑把な人間ではないだろうか、とギコは考えた。
ならば、ギコがVIP商事に行き、図面を持ち出そうとしても、
自分には関係ないことなのだから、案外放っておくかもしれない。

助ける際に、ギコが取引すれば、恐らくその案を飲むはずだ。
そうすればギコはすばやく任務を遂行でき、さっさとニュー速グラウンドに帰還できる。

そう、ギコは考え、兄者の手を貸した。

144 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:00:55.48 ID:STu6v6u20
かなり長く、丈夫そうなロープが出来た。
本来なら高級な服を選び、持ち帰るところだったが、
今はただの手荷物になるだけなので、残念ながら諦めた。

それを持って兄者の案内で横倒れになったビルとやらに辿り着いた。
なるほど、たしかに見事なほどに横になっている。

兄者はロープを近くの街灯に縛り付けた。
二人で思い切り引っ張れど、びくともしない。
頑丈そうだ。

( ´_ゝ`)「悪いが、俺より軽そうだし、運動神経もありそうだから、
       ギコ、お前が行って来てくれんか?
       場所はさっき話したとおりだ」

(,,゚Д゚)「まあ、いいぞ」

ギコとしては、兄者に聞かれてはまずいということもなかったが、
だがやはり取引を知る人間は少ないに越したことはないと思い、了承した。

ロープを掴みながら、ビルの中へと侵入した。
横倒しになったビルに入ったのはもちろん初めての経験で、
なんだか妙に落ち着かない気分になる。

背筋の悪寒はあまりなく、突然の崩落は起こりそうにない。

145 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:07:45.12 ID:STu6v6u20
少し進むと、目の前に瓦礫の山があり、通ることが出来なくなっていた。
頭上には開かれた扉があり、そこから瓦礫の山の上を通り、向こうへ行けそうだ。
ここまでは、どうやら兄者の話す通りだった。

その辺に転がっている机を台に、即席のロープを口に咥え、懸垂の要領で体を持ち上げた。

(,,゚Д゚)「どっこいしょ」

扉の上は、部屋だった。
自分が10人ほどいてようやく天井に届くくらいの高さに、壁があった。

(,,゚Д゚)「なんか不思議な感じだぞゴルァ」

呟き、また歩き始めた。
一点に集中した重みのせいか、壁をつき破った瓦礫が目の前にあった。
先ほど見た瓦礫の山は、これらしい。

その上を、崩さないように慎重に歩いた。
ぱらぱらと小さな破片がこぼれ落ちるが、案外丈夫そうで、
難なく歩き渡ることが出来た。

兄者の話だと、この先の扉の下にジョルジュがいるという話だ。

扉の下を覗きこんだギコは、思わず

(,,゚Д゚)「あれ?」

という声を漏らした。

ギコの視線の先には、自分の背丈ほどの瓦礫が積まれているだけで、
ジョルジュらしき人間の姿などどこにもなかった。

一瞬兄者に騙されたのだろうか、などと考えたが、
しかしこれまで何も害意ある行動を取られたわけでもなく、
騙されたと考えるのは少々早すぎると考え直した。

(,,゚Д゚)「おーい、ジョルジュとかいうのはどこだぞゴルァー!」

叫べど、返事はなかった。
とりあえずロープを持ったまま、ゆっくりと下へと降りた。
山積みになっているコンクリート片を避けてビルの外へ顔を出してみるが、
やはり誰もいなかった。

(,,゚Д゚)「ジョルジュー!」

ビルの中にもう一度叫んでみるが、反応はなかった。
逃げたのだろうか。そうギコが考えた矢先、目の前に自分の背丈ほど積まれた瓦礫が
突然崩れ落ちた。
頂上のほうを少しばかり削り落としただけだったが、それだけで、
ギコにはもしかしてという考えが浮んだ。

(,,゚Д゚)「おい、もしかして、この下にいるのかゴルァ!」

山を素手で少しずつ落としながら、ギコはいった。
だが如何せん量が多く、一人では時間がかかってしまう。

(,,゚Д゚)「おーーーい、兄者ッ! ちょっと来てくれ!」

遠くから小さく、なんだ、という兄者の声がビルの中で響いて聞こえた。

146 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:11:22.07 ID:STu6v6u20

( ´_ゝ`)「……で、この下にジョルジュがいるかもしれんと」

(,,゚Д゚)「ああ」

( ´_ゝ`)「……だが、この下にいるとなると、もしかしてもう……」

(,,゚Д゚)「いや、息はあると思うぞ。
     地震が起きた様子はなかったし、勝手に瓦礫が落ちるにしても、
     この量は多いと思う」

( ´_ゝ`)「なんにせよ、ジョルジュの安否を確認するのが先決だな」

(,,゚Д゚)「ああ」

二人は共に瓦礫を落とし始めた。
大型のコンクリートの破片は二人で一緒に持ち上げた。

幾らか落とすと、大きな机が三つほど出てきた。
それらは上手く隙間を作り、その下には少しばかりの小さな破片があり、

( ´_ゝ`)「じょ、ジョルジュ……」

破片の下にはうつ伏せに倒れるジョルジュがいた。

147 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:12:21.64 ID:STu6v6u20
全ての瓦礫を取り払い、倒れているジョルジュを抱き起こした。
ジョルジュは小さく呻いており、どうやら生きているようだ。

( ´_ゝ`)「おい、ジョルジュ! 大丈夫か!?」

兄者が頬を思い切りビンタしながら声をかけた。

( ゚∀゚)「……も、戻ってきたのか……」

そのビンタの甲斐あってか、ジョルジュは呟くように、呻きながらいった。

( ´_ゝ`)「そりゃあな、戻ってくるっていっただろ」

( ゚∀゚)「い、いってねえよ……」

( ´_ゝ`)「そうだっけか。まあ起きれるか?」

兄者の腕を杖に、ジョルジュはよろよろと身を起こした。

( ゚∀゚)「なんか首元が痛むが……何とか……」

( ´_ゝ`)「そうか。良かった」

二人は安堵しあい、ほっと胸を撫で下ろした。

(,,゚Д゚)「……それで、あんたがジョルジュなわけだな」

( ゚∀゚)「あ、ああ、そうだ。助かった……サンキュー」

(,,゚Д゚)「礼をいうくらいなら、一つ頼まれてくれ」

148 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/23(木) 02:12:45.90 ID:STu6v6u20
ギコがそういうと、ジョルジュは不審そうな顔をした。

( ゚∀゚)「……なんだ?」

(,,゚Д゚)「いや何、俺はある人間に頼まれてVIP商事に図面とやらを取りに行くことになった。
     だから、VIP商事内の案内をしてほしい。
     どうせその図面も、こんな状況になっちゃ、あんたにゃ関係ないだろ。
     感謝してくれるんなら、それくらい頼まれてくれ」

ギコがまくし立てるようにいうと、ジョルジュは少し悩み顔をした。
目覚めたばかりで、回らない頭で悩んだ挙句、一つだけ頷いた。

( ゚∀゚)「……いいだろう。たしかにこんなになっちゃ、俺も異動だろうしな。
     ただし、それでも俺の名前は絶対出すなよ。職まで失っちゃたまらんからな」

(,,゚Д゚)「おう、了解したぞゴルァ」

二人は頷き、一人ずつ持ってきたロープでビルの外へ脱出した。
ジョルジュはまだ本調子ではないらしく、兄者よりも歩く速度は遅かった。
三人はVIP商事を目指し、歩き始めた。

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