【４】 ( ^ω^)ﾌﾞｰﾝが絶体絶命都市から生きて脱出するようです｡
11 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 21:58:48.27 ID:zgIvYgI00
――ブーン――
同日 AM 7:41
失意のまま眠り、朝を迎えたブーンだったが、
どうやらボランティアの人間の一員として皆から認識されているらしく、
当然のように朝早くに叩き起こされ、食事の用意を手伝わされた。
ボランティアの人が昨日のうちに五人、亡くなってしまった。
その分やはり補充人員のようなものは必要のようで、
ブーンの他にも新たに立候補者を集い、補充した。
朝は白米、コチュジャンを少しばかり入れた豚汁、
それに焼き魚という、ある意味一般家庭的な料理だった。
それは学校内の人々に大いにうけた。
少し辛みのある豚汁は食欲促進をはかり、かつ体を温めてくれる。
豚肉がダメと言う人間には味噌汁を用意したため、
そちらもあっという間に空になった。
17 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 22:10:28.43 ID:zgIvYgI00
ブーンたちは昨日と同じく、いや、ツンを除いた四名で食卓を囲んだ。
昨夜のぎこちない空気は、この食卓にまで及んだ。
誰一人として話さず、黙々と食事は続いた。
l从・∀・ﾉ!ﾘ人「……ごちそうさまなのじゃ」
一番最初に箸を置いたのは妹者だった。
弟者が横目で妹者の食器を覗き、ほとんど食べていないことに気付いた。
（´<_｀ ）「食事はちゃんとしておけ。
食料だって無尽蔵と言うわけでもないし、
何より体が持たないぞ」
l从・∀・ﾉ!ﾘ人「……いいのじゃ……」
（´<_｀ ）「いや、食べておけ」
弟者の冷静な声は、妹者の心を震わせた。
l从・∀・ﾉ!ﾘ人「……いいっていってるのじゃ！
おとじゃのおたんこなーす！」
妹者は顔をしかめ、机をばんと叩き、立ち上がった。
そのまま弟者の顔をにらみつけ、校舎のほうへと走っていった。
28 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 22:22:12.80 ID:zgIvYgI00
走り行く妹者の背中を見つめながら、弟者はため息を一つ吐いた。
その様子を、クーが箸を置き、尋ねた。
川 ﾟ -ﾟ)「……駄々をこねたのか？」
（´<_｀ ）「……ああ。どうしても一緒に行くと言って聞かなくてな。
どうも、昨日の惨状を見て、な……」
言ってから、少しばつが悪そうにブーンのほうを見た。
ブーンはその視線に気付かず、心ここにあらずと言う風に黙々と食事を続けている。
食事の手伝いをしているときでも、ブーンの心は上の空だった。
昨夜のあの光景。
人が、人の手によって殺され、その中に一人立っていたショボン。
あの時の顔は、瞳を閉じれば今でもまぶたの裏に浮んでくる。
氷のように冷静そうないつものショボンの顔。
だがそれは普段と違い、いっそう恐ろしく見えた。
34 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 22:29:39.43 ID:zgIvYgI00
ショボンが、弟者たちの見た通り魔だという。
襲われた当の本人たちだ、顔を見間違えることはないだろう。
しかし、ブーンには分からなかった。
何故、ショボンが通り魔などしているのかということ。
そして最後のあの言葉――まだ死ねない、というあの言葉。
意味が分からない。
何故人を殺すのか。何故死ねないのか。
何も分からないことばかりだった。
今まで、ブーンとドクオ、そしてショボンの3人で一緒にいたとき、
彼はいつも無表情で、しかしふと気難しい顔をすることがあった。
だが声を掛ければその表情は消え、また無表情な顔に戻る。
今思えば、彼はもしかすると、あの平穏な世界に飽き、
悶々として過ごしていたのだろうか、などとも思えてくる。
だから、こんな無秩序な世界になり、嬉々として人を襲い、世界を狂わす……。
（ ＾ω＾）「（……そんなこと、あるはずない……お……）」
43 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 22:41:49.26 ID:zgIvYgI00
だが断定は出来ない。
彼が通り魔であるという確固とした証人、証拠があるからだ。
……どう考えても、ショボンが犯人であるという可能性が、否定できなかった。
川 ﾟ -ﾟ)「おい、ブーン」
呼ばれて、びくりとした。
自分がそんな邪な事を考えていることが、ばれたのかと思い、焦った。
川 ﾟ -ﾟ)「どうした。もう空だぞ、それ」
クーにそう言われ、自分の手元の茶碗を見た。
いつの間にか茶碗の中の料理は、全て自分の胃に収まったらしい。
味はなく、食感もなかった。
その様子を不審そうにクーは横目で見た。
川 ﾟ -ﾟ)「……そんな調子じゃ、通り魔に襲われるぞ」
クーがぽつりと呟いたその一言に、ブーンが突然立ち上がり、叫んだ。
（ ＾ω＾）「ショボンはそんなんじゃないお！」
喚き散らすような大きな声に、周囲の人間は何事か、という目で見てきたが、
またあのテーブルか、と拍子抜けした様子で、また食事に戻った。
45 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/11(土) 22:50:49.33 ID:zgIvYgI00
（´<_｀ ）「……ブーン……」
弟者が何とも言えない目で、ブーンを一目見た。
その目にはっとし、ブーンはしずしずと椅子に座り、俯いた。
思わず大声で否定したものの、
どうしようもなく、ショボンが通り魔であるという結論が
頭の隅にこびり付き、離れない。
今一度ショボンに会って話を聞きたい。訳を聞きたい。
だが、次に出会ったとき、あちらから襲ってきたら、ブーンにはどうしようもない。
それが恐ろしかった。
ドクオなら、この状況でも、ショボンのことを信じ続けられるのだろうか。
ドクオ……彼はどこにいるのか。
まだ生きているのか。
ブーンには何も分からない。
375 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:10:36.34 ID:il3K17110
――ドクオ――
同日 AM 7:50
……目を覚ますと、隣りで女の子が寝ていた。
('A`)「……」
ドクオを抱きかかえるような姿勢で、もう少し近寄れば、
本当に抱きかかえられるような、そんな姿勢。
良く見れば中々整った、だが幼さを残したその顔立ちは、
昨日こそ気が付かなかったがかなりドクオのタイプだった。
そんな子がすぐそばにいる。
これはドクオの人生にとって初めての経験である。
隣りで女の子が寝ているという状況は、これまでの人生一度としてない。
というより、ドクオは今まで女の子と話したことすら、指で数えるほどしかなかった。
それが昨夜は指で数えるどころか、これまでの人生での
女の子との会話の数を合わせても未だ足りないくらい話した。
しかもその女の子が隣りで小さな寝息を立てて眠っているのだ。
377 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:15:01.49 ID:il3K17110
('A`)「……ｳﾋ」
思わず笑みが漏れた。
相手は完全に寝入っている。
これなら恐らく、触るくらいではばれない。
女の子と手すら握ったことのないドクオは、
そう考えるだけでも耳が熱くなり、脳味噌はピンク色になる。
('A`)「……腕触るくらいなら問題ないよな……」
恐る恐る目の前にある腕に触れた。
やわらかかった。
('A`)「ｳﾋｮ」
本来自分とあまり変わるはずのない肌触りなのだが、ドクオはそれでも嬉しかった。
脳汁が体中から垂れ落ちそうだった。
そうして、ピンク色になった脳味噌は次なることを打算する。
――キスしちゃっても、いんじゃね？
自分の少しだけ奥にある小さな唇を見た。
もっと柔らかそうだった。
381 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:19:43.97 ID:il3K17110
('A`)「……」
(*'A`*)「……」
なぁに今ならばれることはない。
やっちまえ、誰も見ちゃいない。
いやでも……。
問題ねえよ。
やっちまえ。もうお前に来ない春かもしれねえぞ。
俺の、春……。
そうだ。青い春だ。
青い春……。
青い春だ。
青い春か！
青い春だ！
よしやっちまう！
ビバ青春！
('A`)「……」
383 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:23:50.63 ID:il3K17110
柔らかそうな唇に、自分のそれを近づける。
興奮で、口から息が漏れそうだった。
必死に息を止め、震えながら重ねようとした。
（−＿−）「……」
そのとき、ツンの向こう、昨日とまったく同じポジションに座っている
ヒッキーの姿が目に飛び込んできた。
ヒッキーは動かない。
昨日と同じく、常に瞑っているんじゃないかと思われるほど細い目は、
起きているのか眠っているのか判別するのが難しい。
というより、息をしているのかも分からないほど、微動だにしない。
('A`)「……」
その細い目は、ドクオに何か囁いているように見える。
――変態。
386 ：以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします ：2006/03/14(火) 19:32:29.69 ID:il3K17110
('A`)「……ち、違う、俺はそんなつもりは……」
（−＿−）「……」
――なんか昨日は大層な説教垂れておきながら、よくもまあ……。
('A`)「ち、違うよ！ そんなんじゃないよ！」
ヒッキーの責め立てるような細い目に、思わずドクオは叫んでいた。
J('ー`)し「……ん……ドクオ、どうかしたの……？」
足を怪我しているからということで、パイプベッドで眠っていた母が目を覚ました。
驚いたドクオはツンから飛び退き、壁に頭をぶつけた。
('A`)「んぐおぉぉ……」
J('ー`)し「ど、どうしたの？」
('A`)「な、何でもないよ……それより、もう朝だよ。
他の奴ら、さっさと起こそう……」
387 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:41:25.46 ID:il3K17110
残念に思いながらも、ドクオは隣りのツンを揺さぶり起こす。
ツンは呻くような声をあげながら、目を覚ました。
母はヒッキーを揺さぶっていた。
やはりヒッキーも今まで眠っていたのだろうか。
('A`)「損した……」
J('ー`)し「え？」
('A`)「な、何でも無いよ何でもない。さ、さあご飯でも取りに行こうかなあ」
ドクオの呟きが母には聞こえていたらしく、
その場から逃げるために朝食を取りに行こうと立ち上がり、部屋を出ようとした。
（−＿−）「……」
ヒッキーと目が合った。
先ほどのあれを見られてはいないだろうか。
そう思うと焦燥感が募り、いやな汗が噴出してくる。
388 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 19:49:33.84 ID:il3K17110
だがヒッキーは今まで寝ていたはずだ。
大丈夫、心配するな。
今でも瞑っているような目だが、だがあのときに比べれば幾分か開いている。
そう考えると、少しばかり安堵した。
（−＿−）「……変態」
('A`)「……え」
ぽつりとヒッキーが漏らした一言。
ドクオにはそれが「変態」と言ったように聞こえた。
だが聞き返せども、ヒッキーはもう語らない。
ドクオは泣きたくなった。
394 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 20:03:04.46 ID:il3K17110
――ギコ――
同日 AM 8:41
(,,ﾟДﾟ）「……おい、早く行くぞ。こうしてる間に救助が来たらかなわんぞｺﾞﾙｧ」
（*ﾟーﾟ）「う、うん……」
結局昨夜はほとんど眠ることなく、歩き続けた。
下手をすればこの周辺も地盤沈下を起こすかもしれない。
だから一刻も早く避難場所に向かうべきだ。
あの逃走劇の後、しぃが歩きながら寝るほど疲れていたので、
少しばかり休憩を取った。
しぃはすぐ横になり、寝息を立て始めた。
ギコはあまり寝なくても大丈夫な体質だったことも手伝い、
その間ずっと起きて見張りをしていた。
397 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 20:18:19.34 ID:il3K17110
しぃの穏やかな寝顔を盗み見ながら、
こうして自分がこの場に座り、見張りなどしていることが不思議だった。
いつもの自分ならここでしぃを放ってでも避難場所へと歩み始めていた。
だが今はそうじゃない。
振り返ってみれば、色々なことが昨日のうちに起きた。
地震による都市の崩壊、火事場泥棒、しぃの救助。
どれも初めての経験だった。
まずこれほど大規模な地震に自分が遭遇することなどなかったし、
これまで空き巣は何度もやってきたが、火事場泥棒なんてのはする機会がなかった。
それに命を賭けて人を助けるなんてこともなかった。
今まで、自分の人生は下方下方へと大きく転落していくものだと思っていた。
だからこそ、自分の住んでいた町が崩壊してしまったし、
火事場泥棒なんてのも働いてしまった。
409 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 21:14:15.03 ID:il3K17110
だが、一つだけ違った事がある。
誰かを助けること。
それは火事場泥棒や空き巣に比べ、決して悪いことじゃないと思う。
これが自分の人生のターニング・ポイントになり得るものではないだろうか。
そうギコは感じた。
この自分の人生の分岐点は、
もしかしたらしぃを助けるか、助けないか、の二択にあったのかもしれない。
ギコはしぃを助けた。
この選択肢が、ギコの人生にとって、より下方へと追いやる推進剤になるか、
上昇気流になるかは分からない。
もしかすれば、ギコは道を誤ったかもしれない。
この結果により、ギコの命は失われるかもしれない。
ギコにとって不幸な結末が訪れるかもしれない。
だが、しぃの穏やかで安らぎに満ちた寝顔を見ていると、
そんな結末が待ち受けようとも、しぃを放って逃げ出すということは出来なかった。
――俺は、甘くなったのだろうか。
しぃの寝顔を見ながら、ギコはそう考えた。
417 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 21:35:37.66 ID:il3K17110
(,,ﾟДﾟ）「……そろそろ、ニュー速グラウンドが見えてくるはずだぞ。
あれは中々大きいからな。遠くからでもよく分かるぞｺﾞﾙｧ」
後ろについて歩くしぃに声を掛ける。
昨日の疲れがまだ取れていないのか、もしくは休んで筋肉痛でも起こしたのか、
口数は少なく、ギコとしては有り難いながらも、少し心配になった。
（*ﾟーﾟ）「うん……」
深く息を吐きながらしぃは懸命に歩いた。
その様子を見ながら、ギコは少しだけ歩速を落とした。
しぃはそれに気付かず、ゆっくりと歩いてくる。
やがて肩を並べて歩く頃には、ギコの真意を読み取れているのだろうか。
ニュー速グラウンドは、まだ遠い。
418 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 21:47:05.79 ID:il3K17110
――？――
日付不明 時刻不明
一人の女が、薄暗い、しかし確かに電灯の光が照らす部屋の中を歩いていた。
誰にも見つからないように歩くその姿は、傍から見れば異様だった。
音を立てず、周囲に誰もいないのを確かめつつ歩く。
挙動不審のその女は、幾らか歩いた後、五つほどのケースが並ぶ部屋に辿り着いた。
ケースに隠れるように、一人の男がいた。
背は低く、少し太り気味だが、顔つきは中々引き締まっていた。
その男は声を潜め、耳打ちするように女に話しかけた。
「……誰にもつけられなかったか？」
「ええ、大丈夫。でも早くしましょう。計画が水泡に帰す前に」
「ああ」
頷き、男がそばにあるコンソールを素早く操作し始めた。
キーボードを叩く音が部屋中に響き、女は少し心配になった。
この音を聞きつけ、何者かがやって来るのではないか。
423 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 22:00:11.96 ID:il3K17110
だが女の心配は杞憂だった。
男が最後のキーを叩くと同時に、ケースの上部が持ち上がり、
そのケースの中身が二人の目の前に晒された。
「……」
男は何とも言えない顔つきになり、ケースの中にいる人間の頭をそっと撫でた。
その手つきは優しく、愛しい者を愛でる様だった。
「……時間もないし、そろそろこっちのほうも頼むわ」
女が苛立たしげに言い放つと、男は頷き、その手を別のコンソールへと向けた。
同じ動作を繰り返し、その動きは流れるように滑らかだった。
そのとき、一つの足音が聞こえてきた。
女は驚き、時計を見た。
「まだ見回りに来る時間じゃない……」
「……一旦閉じる。君は先に出ていてくれ。
僕一人なら、別段怪しまれることはないだろう」
「……わかったわ」
425 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 22:11:34.36 ID:il3K17110
女が頷き、駆け足で音の聞こえる通路とは別の出口から部屋を出た。
男は居残り、素早くキーボードを叩き、ケースを閉じた。
ケースが閉じられると同時に、汚れた白衣を着込んだ男が部屋に入ってきた。
「……珍しいですね、貴方がこんなところにいるなんて」
「そうかい？ 僕だって、人の子だからね。たまには息子の顔も見たくなる」
至極平静を装い、男は言った。
その言葉に白衣の男は驚くような、侮蔑するような、不思議な顔をした。
「……自分の息子を研究材料にするシャキンさんの言葉とは思えませんが」
（｀･ω･´）「……君、言葉が過ぎると思うが」
「ああ、すいません」
少しばかり済まなそうな顔だけして、白衣の男は他のケースを見た。
427 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 22:27:19.23 ID:il3K17110
（｀･ω･´）「それで、君は何の用だったんだい？」
シャキンと呼ばれた男は、白衣の男にそう問いつつ、
後ろ手でキーを一つ一つ音を立てないように叩いた。
白衣の男はケースの中身を観察するようにねちっこく眺めた。
「ええ、実は、施設内に不穏な空気が漂ってまして……。
その調査というか、まあ、そんなものです」
（｀･ω･´）「不穏な空気？」
「何だか、誰かが裏切りでも起こしそうな、そんな空気です」
（｀･ω･´）「……それは、穏やかじゃないね」
「ええ、だから『不穏』って言うんですよ」
含み笑いをして、白衣の男はケースをこんこんと小突いた。
（｀･ω･´）「その空気の発信源は、分かっているのかい？」
「いやぁ、それがまだまだなんですよ。
それにこれは私の勘でしてね、多分他の者は気付いてないと思います。
ねえ、シャキンさん」
白衣の男が振り向き、シャキンの顔を見た。
その眼はシャキンのしようとしていることを見透かすような眼だった。
431 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/14(火) 22:50:08.93 ID:il3K17110
（｀･ω･´）「……ふむ。それなら、一刻も早い捜査を要請しよう。
何かあってからでは、手遅れになる」
シャキンはその眼を真正面から見つめ返しながら、静かに最後のキーを叩いた。
しばらく見つめ合った後、白衣の男は視線をそらし、一つだけ頷いた。
「……いや、まだ確信はないんです。今は捜査の必要はないと思います」
（｀･ω･´）「……そうか」
「さあ、ちょっと煙草でも吸いに喫煙室にでも行きましょう。
ここは息が詰まって仕方がない」
白衣の男がそう促し、先に部屋の外に出た。
シャキンは『息子』のいるケースを一瞥し、一緒に出て行った。
それから数分後、誰もいなくなった部屋で、
ケースが静かに開いた。
幾らかの時間が経ち、中にいた『息子』が立ち上がった。
少し辺りを見回した後、脳内にインプットされた地図を頼りに歩き始めた。
451 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 00:06:17.46 ID:COLuLALz0
――ドクオ――
同日 AM 8:30
('A`)「……で、お前はやっぱ家に帰るのか」
ξﾟ��ﾟ)ξ「お姉ちゃんとお父さんが心配だし」
('A`)「……で、ヒッキーはここに残る」
（−＿−）「……」
('A`)「……で、ｶｰﾁｬﾝはどうしても二人をフサギコ医院に連れて行く、と」
J('ー`)し「ツンちゃんをフサギコ医院に連れて行くかはともかく、
こんな中、一人にさせられるわけないでしょ。
ヒッキーも一緒よ。いつ地震が起きてここが崩れるかも分からない」
('A`)「……どうすりゃいいんだよ」
先ほどから、三者三様の意見が交差しあい、
結局何も纏まらないまま時間だけが無為に過ぎた。
ツンは家に帰ると言って聞かず、ヒッキーはこの部屋から動く気はないらしい。
母の優しさも、この時ばかりはうんざりするばかりだった。
453 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 00:11:58.54 ID:COLuLALz0
('A`)「……ツン、せめてさ、俺たちに付き合って、フサギコ医院まで来てくれ。
そこでｶｰﾁｬﾝを置いて、ツンに付き合うから。
ｶｰﾁｬﾝもそれでいいだろ？」
ξﾟ��ﾟ)ξ「あたしは家に帰るわ。フサギコ医院ってとこに行く理由がないし」
('A`)「いや行く理由って……」
J('ー`)し「それに、ヒッキーもこのままここに居させる訳にはいかないよ」
('A`)「ヒッキーはここから動く気ないじゃないか……」
（−＿−）「うん」
('A`)「……」
ドクオに苛立ちが募り始める。
こっちはさっさとショボンが待つフサギコ医院に行き、
母を安全な場所に連れて行ってやりたかった。
ツンも家に帰りたいって言ってるのだし、ヒッキーもここに残ると言っている。
ヒッキーは母をフサギコ医院に連れて行った後、
そこにいるであろう人間に頼み、連れて行ってもらえばいいではないか。
だが母はその間にここが倒壊したらどうする、と言って聞かない。
455 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 00:26:18.82 ID:COLuLALz0
('A`)「……なぁ、誰か妥協してくれないか？ 特にｶｰﾁｬﾝ」
嘆願するように、母に言うと、
J('ー`)し「人の命に妥協もないよ」
と当然のように語った。
('A`)「いや、そうだけどさ」
このように全く話が纏まらない以上、ここから動くことは出来なかった。
母とヒッキーを残し、ツンを送り、一人でフサギコ医院に行き、
応援を呼ぶという選択肢もあったが、母の言う通り、ここが倒壊しない可能性もない。
まさに八方塞だった。
('A`)「じゃあどうすればいいんだよ。誰かいい意見出してくれよ」
ξﾟ��ﾟ)ξ「だからあたしは一人でも家に帰るって言ってるでしょ」
（−＿−）「……僕はここに残るよ……」
J('ー`)し「……」
結局、何も意見が出ないまま、また時間だけが経った。
このまま一人ででも外に飛び出し、逃げてしまいたくなるような思いが
ドクオの中に募り始める。
そのときだった。
457 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 00:34:47.02 ID:COLuLALz0
玄関の重い扉が開く音が、聞こえてきた。
('A`)「……誰だ……」
扉の閉まる音が、大きく家中に響く。
どうやら空耳などではないらしく、他の三人も顔を見合している。
('A`)「……ヒッキー、お前のﾄｰﾁｬﾝか？」
（−＿−）「ううん、父さんは本島のほうで仕事してるから」
帰ってこれるはずがない、という言葉を続けられなくても悟った。
では誰なのか。
俺たちと同じく避難民か？
それとももしかして、例の通り魔か……？
階下から扉を開閉する音が聞こえてくる。
家の中を探索しているのだろう。
火事場泥棒だろうか。
それならば、もし見つかったとき、命はないかもしれない。
461 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 00:54:14.36 ID:COLuLALz0
ドクオは静かに、武器になるようなものを物色し始めた。
目の前にフルタワーのパソコンがあった。
だがどう見ても振り回せる大きさではないし、
相手がもし刃物を持っていた場合、小回りが利かない武器では到底勝ち目はない。
扉を開けた瞬間にぶん殴るならともかく、
それが一般人だった場合、流石にまずい。
机の上には大分太い辞書があった。
威力はありそうだが、しかし長さが足りない。
非力で格闘技の心得などがないドクオが勝つには、ある程度の距離が必要だ。
相手が少しだけでも格闘技をかじっていた場合、
距離を詰められれば恐らくそれは敗北を意味する。
そう考えていくと、この部屋に武器になりそうなものは何もない。
いや、あるとすれば……
('A`)「カーテンレール……」
ドクオは窓についているカーテンのレールを見た。
なるほど軽そうだし、長さもある。
案外太く、この部屋にあるものの中では一番扱いやすそうだった。
463 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 01:08:32.46 ID:COLuLALz0
だが問題は、これを取り外す際、必ず大きな音がする。
窓付近の壁にきっちり固定されているためである。
全体重をかければ何とか外せるだろうが、
壁からもぎ取るため、確実に音と振動は起こる。
これは見つかり、応戦する際のことを前提にしたものになる。
だがこの状況だと、確実に来訪者はこの部屋へもやってくるだろう。
扉の前に、バリケードを作ってみてはどうだろうか、と思ったが、
恐らく間に合わない。
持ち上げ、移動させる間に、ごそごそと階上で音がすれば、
招かれざる来訪者はすぐにでもやってくるだろう。
窓から飛び降り逃げるにしても、母は足を痛めている。
自分が先に降り、母を受け止めるにしても、
それまでに下にいる人間がやってくれば、母の命が危ない。
迷ってなどいられない。
やはり闘うべきだ。
465 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 01:21:00.17 ID:COLuLALz0
ドクオはカーテンレールに手を掛け、一気に全体重を掛けた。
ミシミシと軋むような音を立てた後、レールとドクオは一気に床へ落ちた。
したたかに尻を打ちながら、手にあるレールを確認した。
ドクオはレールについたカーテンを全て引きちぎる。
それにはツンも手伝い、比較的素早く引きちぎることが出来た。
階下で聞こえる音が消えた。
誰かがいることに驚き、逃げ出そうとしているのか、
はたまた音を忍ばせこの部屋へと向かってきているのか。
ドクオには分からなかったが、今の状況で出来ることは、
ドアの前に立ち、来たる来訪者に応対することだ。
ドクオがドアの前に立ち、槍代わりのレールを構えた。
心臓の音がうるさい。
鼓動の音が、一歩一歩階段を踏みしめ歩み寄る来訪者の足音のように聞こえ、
少しの音でも見逃すまいとする中、この音は何より耳障りで仕方ない。
握力がなくなるほど強く握る手に、汗が浮ぶ。
まだか――だが出来ることなら来ないで欲しい。
そう思ったとき、ドアノブが回り、それに気付いた瞬間にはドアは開いていた。
('A`)「！」
ドアの向こうに立っていたのは、ショボンだった。
529 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 19:41:48.81 ID:COLuLALz0
（´･ω･｀）「……」
('A`)「……なんだ、ショボンか……」
一気に全身の力が抜けた。
構えを解いた際、思わず足跡の槍を取り落としそうになるが、軽く握りなおした。
（´･ω･｀）「……やあ、君たちか」
ショボンは微妙に身構えていた金属バットを下ろし、ぎこちない笑顔を見せた。
ショボンが笑顔を見せることは非常に珍しく、少し意表をつかれ一瞬驚いてしまった。
金属バットは以前別れたときより、さらに歪な形になっていた。
凹凸のついた表面は妙に艶やかな光沢を放ち、遮蔽物をなくし流れ込む陽光を
反射させ、黄金色に輝いている。
またどこかで救助活動でもしていたのだろうか。
('A`)「……良かった。友達ってのは見つかったのか？」
（´･ω･｀）「え、ああ……いや、まだだ。まぁほっといてもいつか見つかると思うよ」
ショボンは何の気もなしに、そう言い放った。
536 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:03:49.03 ID:COLuLALz0
('A`)「そ、そうか」
別れ際に聞いた言葉と随分違いのある返答に、ドクオは違和感を覚えながら頷いた。
ξﾟ��ﾟ)ξ「……こいつ、あのときの通り魔……！」
ツンが突然大きな声をあげ、身構えた。
それを聞き、ドクオははっとしたが、
しかし血のついていない金属バットを見て、ツンの勘違いだと悟った。
校門で何人もの人間の頭をかち割ったバットならば、血の一つや二つ付いている筈だし、
何よりショボンは自分の友人だ。
こうしてバットを床に向け、ドクオたちを襲う意思がないように見える。
だから、ショボンが通り魔だと疑うのは早計過ぎる。
これまでショボンが通り魔ではないかと疑っていたが、
別れる前と何も変わっていないショボンの姿を見て、
やはりショボンはショボンだと考え、その誤解を解こうとした。
('A`)「いや、こいつは俺の友達のショボンだ。
言っただろ。金属バット持ってて、でも俺たちを助けてくれた友達だ」
ξﾟ��ﾟ)ξ「……そう」
あまりにドクオが呆気なく、しかし真摯に答えるので、
ツンも反論の隙をなくし、訝りながらも納得した。
ショボンは通り魔という単語に反応し、怪訝そうな顔をした。
539 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:11:04.23 ID:COLuLALz0
（´･ω･｀）「通り魔？」
('A`)「あ、ああ。お前は会わなかったか？
お前と同じく、金属バットを持って歩き回っているらしい。
避難場所のひとつ、俺たちの学校の校門前にいた人たちも、
そいつに襲われたらしい」
（´･ω･｀）「……そいつは、危険だねぇ」
('A`)「だからお前も、気をつけたほうがいい。
あとその金属バットもな、捨てたほうがいいかもしれないぞ。
通り魔と同じ物持って歩いてたら、誤解されるぞ」
（´･ω･｀）「……ああ、あとで家にでも置いてくるよ。
それで、後ろの人たちは？」
ドクオの背後にいる三人に視線を向け、ショボンは問うた。
('A`)「ああ、あの根暗そうなのがヒッキー。この家の一人息子。
あのあと俺たちも疲れ切っちまってな、宿を借りたんだ。
で、あっちの女の子がツン。通り魔に追われて、この家に逃げ込んできたらしい」
ドクオが一人一人指差して説明した。
ショボンはふむふむと頷きながらドクオの説明を聞いた。
541 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:19:19.68 ID:COLuLALz0
（´･ω･｀）「あの人は？」
ショボンがドクオの母を見て、尋ねた。
('A`)「え？ 俺のｶｰﾁｬﾝだよ」
J('ー`)し「ショボンくん、無事で何よりだよ」
ドクオが答え、母がショボンの無事を喜ぶと、
ショボンは一瞬の間をおき、ああと頷いた。
（´･ω･｀）「すみません、暗くてよく見えませんでした。
お久しぶりです、おばさん」
言いながら、深々とお辞儀をする。
J('ー`)し「……久しぶりか……。確かに昨日から随分時間の経ちが遅く感じるわね」
('A`)「うん……。
それにしてもさ、ショボンはどうしてここに来たんだ？」
母の言葉に相槌を打ちつつ、何気なくショボンに尋ねた。
ショボンは不意を突かれた様に一瞬体を反らしたが、
またいつもの無表情な顔でその問いに答えた。
（´･ω･｀）「……ここの敷地にその友人が入るのが見えてね。
それで、来てみたわけだ。まだ見つからないが」
546 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:25:10.82 ID:COLuLALz0
('A`)「……玄関の扉を開ける音は一つしかなかった。
それがお前だとすれば、その友達ってのはこの家に入ってきてないことになる」
（´･ω･｀）「……そうか。まぁいずれ見つかるだろう」
ショボンはそう言ったきり、黙りこくった。
みんな誰一人として喋らず、その間ドクオは、こう考えていた。
ここで二手に別れればいいのではないだろうか。
ドクオと母は先にフサギコ医院へ向かい、
ショボンとツン、ヒッキーはツンの家に向かう。
ドクオは母をフサギコ医院で下ろし、ショボン組を迎えに行く。
そしてフサギコ医院で合流すればいい。
その旨をみんなに伝えた。
母とショボンは頷き、了承した。
だがヒッキーとツンはどうも冴えない顔をしている。
('A`)「……なんか不満でもあるのか？」
その顔を察し、ドクオは二人に尋ねた。
ξﾟ��ﾟ)ξ「……別に。あたしは一人でも行けるのになって思っただけよ」
('A`)「まぁそれだとｶｰﾁｬﾝが許さないから、我慢してくれ」
549 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:30:00.58 ID:COLuLALz0
（−＿−）「……僕は、ここにいる」
('A`)「ショボン、こいつは引き摺ってでも連れて行ってくれ」
（´･ω･｀）「了解」
（−＿−）「……僕の意思は……」
ヒッキーがグズグズ反論しようとするので、
ドクオは大きな声でその言葉を遮蔽するように答えた。
('A`)「生きる意思もない野郎が、意思なんて言葉、口にするんじゃねえよ」
（−＿−）「……それが僕の意思」
('A`)「ショボン、とりあえずこいつ、頼むわ」
（´･ω･｀）「ああ。バットで殴ってでも連れて行くよ」
（−＿−）「……」
554 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/15(水) 20:44:10.99 ID:COLuLALz0
J('ー`)し「それじゃヒッキー、フサギコ医院で会いましょう……」
母がヒッキーに語りかけるが、ヒッキーの返事はなかった。
五人は家の外に出た。
一瞬ショボンに引き摺られながらも歩くヒッキーがリビングのほうを気にしたが、
次の瞬間にはそっぽを向き、家の外に連れ出された。
('A`)「……じゃあ、二人を頼むぞ」
（´･ω･｀）「ああ。分かった」
ショボンは頷き、歩き始めた。
その後ろにツン、それから一つ間を空け、観念したのかヒッキーが力なく歩き始めた。
ドクオは母を背負い、フサギコ医院のほうへと足を向けた。
地震で地形が変わっていなければ、フサギコ医院はもうすぐのはずだ。
588 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 00:01:52.11 ID:MLmzq7jN0
――ジョルジュ――
同日 AM 8:50
心なしか道路のほうへと傾きかけているビルの林を、
頭上を気にしながら歩いた。
いつコンクリート片や屋上広告が落ちてくるか分からない。
それに、ビル自体がこちらへ倒れてくる可能性もあるため、常に警戒が必要だった。
（ ﾟ∀ﾟ）「……それにしても、やっぱえらい地形が変わっちまってるな」
ジョルジュは呟き、辺りを見回す。
倒れたビルが道を塞ぎ、割れた大地は底の見えない空洞を覗かせ、
おかしな臭いを振りまく自動車は道端に止まっている。
ふさがれた道を見つけては迂回し、新たな道を模索する。
とりあえず手帳に記した地図を取り出しては、通れない道に×印を付けていく。
地図は粗方×印がつき、ただ一度、いや余震を含め二度の地震で、
こうも地形が変わってしまうことを不審に思いながら、歩いていた。
（ ﾟ∀ﾟ）「……ここもかよ」
行き着く先の瓦礫の山を見つめ、ジョルジュは悪態づきながら
地図に×印をつけた。
595 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 00:16:31.05 ID:MLmzq7jN0
（ ´_ゝ｀）「……となると、これは……」
（ ﾟ∀ﾟ）「……だな」
少し戻った交差点の一方向に、横倒れになりつつもその形状を保っている
大きなビルがあった。
形状を保っているはいるものの、やはりいつ崩れるか分からない。
二人は互いに頷き、そこへ近寄る。
窓から入り、横倒れの壁を歩き、向こうの窓から出るという道だった。
窓に近づいたものの、さすがに恐怖心はある。
二人は躊躇いながら、窓の向こうを見た。
（ ﾟ∀ﾟ）「……なんか窓が見えねえな」
（ ´_ゝ｀）「多分、一度扉から上に上がるしかないな。
恐らく、向こうにまで通じているはず。
いや、通じてないと俺たちはもう手詰まりだ」
（ ﾟ∀ﾟ）「結局行くしかないのね」
（ ´_ゝ｀）「ああ」
597 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 00:25:09.93 ID:MLmzq7jN0
窓に手をかけ、全体重を掛け、上る。
軋みはなく、案外丈夫そうだった。
（ ´_ゝ｀）「……なんか嫌な予感がするな」
兄者がぽつりと呟く。
（ ﾟ∀ﾟ）「やめろよ。こういうときの嫌な予感は必ず当たるんだよ」
ジョルジュが先に中に入り、辺りを見回す。
全てが横になった世界というのは、不思議なものである。
このビルはどうやら一つの商社ビルだったらしく、仕事机が雪崩のように
下へと向かい落ちていた。
そのせいで壁の一部が崩落し、道を塞いでいる。
だが横倒れになっているため、一番階下ということもあり、
いきなり足元の壁が崩落を起こすことはなさそうだ。
その点は安心できるが、問題は頭上にある。
元々一枚の壁というのは、そこまで強固なものではない。
だからこそ、こうして仕事机の重みで壁が落ちている。
つまり、いつ上から壁が降ってくるか分からない状況なのだ。
しかもそれを回避する術は、ただ逃げ惑うことしかない。
これは相当分の悪い賭けとなる。
（ ﾟ∀ﾟ）「だけど、ここを通らねえと、
向こう側に行く道は全て塞がれちまってるんだよな」
（ ´_ゝ｀）「そういうことだ」
600 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 00:38:34.90 ID:MLmzq7jN0
兄者も後をつけるようにビルに入ってくる。
ジョルジュと同じく不思議そうにビル中を見回している。
（ ﾟ∀ﾟ）「……あんまのんびりしてられねえからな。
さっさと渡ろう」
（ ´_ゝ｀）「了解だ」
目の前にある仕事机の山を一つ一つ登る。
まるでこうして登るためにあるかのように、きっちりと並んでおり、
登って行く事は比較的安易のようだった。
一番頂上に上り、また一段ずつ下る。
なんだか子供の頃にやったジャングルジムなどの遊具を思い出させるそれらは、
一瞬ジョルジュを懐古的にさせた。
小さな頃を思い出す暇などないと思いつつも、
やはり昨日までの平和な世界にノスタルジーを感じてしまうのだ。
自分がそれほど平和ボケしていたことが、少しだけ恥ずかしい。
606 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 01:02:05.50 ID:MLmzq7jN0
兄者も続いて降りてくる。
だがあまり運動が得意でない兄者には、少し厄介な敵のようだ。
その動きはジョルジュよりも数段遅い。
ジョルジュは先行し、あたりの状況を調べている。
前方は瓦礫で埋まり、道は塞がっていた。
だがその瓦礫はちょうど天井、つまり頭上の壁の高さであるため、
真上にある扉から上の壁に乗れば、何とか渡れそうに思えた。
だが問題は、それがジョルジュの体重、そして兄者の体重を支えられるかである。
先ほども言ったとおり、一枚の壁というものにあまり強度はない。
元々人間が乗るように出来ていないからだ。
実際問題、ジョルジュ一人、兄者一人なら恐らく崩れることはないはずだ。
だが、上に被さる机などの重さもプラスすれば、どうなるか分からない。
それに、何とか渡れそうとは言っても、ジョルジュの身長では恐らく届かない。
兄者の身長でも無理だろう。
肩車をすれば届くだろうが、正直非力な兄者に肩車は出来ないだろう。
つまり残るのはジョルジュということになる。
運動音痴な兄者にロープかなにかを探してきてもらうというのは、
少し荷が勝ちすぎてはいないだろうか。
それに、もしここに残っていて、頭上の崩落が始まれば、
ジョルジュに命はない。
（ ﾟ∀ﾟ）「……」
607 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 01:09:35.85 ID:MLmzq7jN0
しかしここまで来たのならば、全てを兄者に任せるしかない。
橋の崩落の危機も何とか乗り切った兄者なら、
少しは期待してもいいかもしれない。
（ ﾟ∀ﾟ）「……兄者。実はな」
ジョルジュはそう思案し、兄者にその旨を伝えた。
（ ´_ゝ｀）「……なるほど。分かった」
兄者もそれしか道はないと理解し、頷く。
兄者を肩に乗せ、思い切り立ち上がる。
ジョルジュのほうが力があると言っても、兄者はジョルジュより長身で、
肩車をするには少し難しい。
それに加え、兄者のほうが体重は軽いが、それでも10kgほどの差だった。
足はよろけ、腰は砕けそうになるが、必死に耐えた。
兄者は手を伸ばし、扉の淵に手を掛けた。
そのまま一気に懸垂のように体を持ち上げ、
最後はジョルジュの肩を蹴って上の壁へと上った。
壁は落ちなかった。
（ ﾟ∀ﾟ）「……も、もうちょい優しくやれ」
（ ´_ゝ｀）「すまんな」
610 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/16(木) 01:35:29.98 ID:MLmzq7jN0
兄者は手を振り、そのままビルの奥へと消えていった。
瓦礫の上を慎重に歩く音が聞こえる。
音は聞こえなくなり、どうやら無事に渡りきったようだ。
こうして一人でいる時間というものを
兄者と出会ってから感じることがなかったため、やけに長く、落ち着かなかった。
壁や天井に遮られ、外界と遮断され、崩落の怖れもあるこのビルの中だと、
とくにそう感じるのだろうか。
ジョルジュは兄者に任せるといったが、兄者は戻ってくるのだろうか？
そのまま一人でサスガビルへと向かってしまわないだろうか。
もしかしてこのままほったらかしで一人で逃げてしまうのではないだろうか。
ジョルジュはふと不安に駆られた。
長いことずっと一緒にいた気がしたが、まだ出会って二日なのだ。
実質一日ほどしか共に行動していない。
それ故に、未だに兄者の真意というものを悟ることが出来ない。
いや、こちらは全て腹を割って話している。
あちらとてそれは同じだろう。
兄者の話に、矛盾や違和感など感じなかった。
だがそれはやはり完全に信用していいかは別問題だ。
そう考えると、兄者に行かせたのは少し早計過ぎたかもしれない。
746 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 01:13:00.52 ID:/tEuBqLm0
（ ﾟ∀ﾟ）「……」
時間が経つにつれ、ジョルジュの中の不信感はいっそう募る。
かもしれないという仮定表現が、断定表現に変わりつつある。
苛立ち、胸ポケットから煙草を取り出す。
床にはもう五本もの吸殻が散らかっていた。
この煙草が吸い終わるまで……。
そう最後の希望を信じ、待った。
煙草が半ばほどに縮まったとき、小さな揺れがあった。
（ ﾟ∀ﾟ）「！？」
まずい、と入ってきた道へ駆けようとする。
そのジョルジュの背中から、突き抜ける電撃のような痛みが走った。
天井……つまり頭上の壁が激突したのだった。
ジョルジュはそのまま倒れこみ、その上に天井や机が覆いかぶさるように降ってきた。
（ ﾟ∀ﾟ）「（信じた俺がバカだったのか……）」
そうして、ジョルジュは意識を失った。
749 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 01:29:42.91 ID:/tEuBqLm0
――ブーン――
同日 AM 9:21
ブーンは出立の前に、一旦母の無事を確かめに家に帰ること、
母が学校よりも近い避難場所であるフサギコ医院へ向かったのなら、
そちらに行ってみることをボランティアの人間に話した。
彼らは昨夜の出来事で校門前の警備、学校周辺の警邏を強化しており、
ブーンの外出にも渋った。
だがブーンの必死の説得により、何とか許可を得ることが出来た。
（ ＾ω＾）「じゃあ、行ってくるお。クー、妹者のことを頼んだお」
（´<_｀ ）「俺からも頼む」
川 ﾟ -ﾟ)「ああ、任された。無事に帰って来いよ。
恐らく、救助が来るとしても、この人数では
一度に救助されるわけではないだろう。
ぎりぎりまで待つからな。必ず帰って来い」
（ ＾ω＾）「分かったお」
ブーンは頷き、妹者を見た。
妹者はクーの隣りでしょんぼりしている。
弟者の必死の説得により、何とかクーと共に待機しておくことを
了承した。
752 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 01:38:30.61 ID:/tEuBqLm0
（´<_｀ ）「……じゃあ、兄者を連れて必ず戻るからな。
待っていろ、妹者よ」
l从・∀・ﾉ!ﾘ人「……」
二人は背を向け、校門を出た。
弟者は右、つまり南へと向かう。
ブーンは左。北へと向かう。
（ ＾ω＾）「じゃあ、弟者も気を付けるお」
ブーンがそう言って、右腕を差し出そうとするが、
弟者が右腕を骨折していることを思い出し、左腕に代えて差し出した。
弟者はそれを強く握り締めながら頷いた。
（´<_｀ ）「それでは、またな」
（ ＾ω＾）「うんだお」
二人は互いに反対の方向へと歩き始めた。
753 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 01:46:40.95 ID:/tEuBqLm0
ボランティアの人間により、ブーンの歩く学校周辺の道にあった死体は、
全て学校のグラウンドに収容されていた。
そのため昨日のような悲惨な状況はなく、
たまに水溜りのように血が残っているくらいだった。
その道すがら、ブーンは自分たちの昔の出来事を思い返していた。
ブーンがこの島にやってきたのは、この島が出来て比較的すぐだった。
当初からニュー速には小さな小中高一貫の公立の学校があった。
自分たちが今までいたところだ。
ブーンは作業中に何度か行った程度だが、あの敷地内に小中学校の校舎もある。
ここへ越してきたとき、ブーンは中学一年生だった。
あとから聞いたところによると、この年はまだ入学式なんて行われなかったらしい。
皆、ブーンのように途中入校だった。
同じ頃に越してきて、同じ日に入校したドクオとは、その時からの付き合いだった。
('A`)「……よ、よう。お、俺ドクオってんだ。よ、よろしく」
この時はまだ知らなかったが、案外人見知りする性質だったらしく、
結構どもりながらもドクオは話し掛けて来た。
（ ＾ω＾）「……あ、あ、よ、よろしくだお！ ブーンだお！ 僕！」
ブーンも前の学校では苛められており、こうして話し掛けられることに慣れておらず、
同じくどもりながら自己紹介を返した。
ドクオとは、それ以来、ずっと一緒に行動していた。
759 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 02:16:47.66 ID:/tEuBqLm0
ブーンに友達はあまりいなかった。
というか、実質友達付き合いがあるのは、ドクオとショボンのみだった。
やはりブーンは苛められっ子の発する独特のオーラというものがあるのか、
同じクラスのDQNやギコに苛めとまではいかないが、いびられてはいた。
他のクラスメイトは、それを傍観し、
またある者は自分に害が被ることの無いよう、見て見ぬ振りをした。
そんな中、ドクオは必死にブーンをかばい、助けた。
DQNたちのいびりに決して挫けず、次第にいびられることは無くなった。
（ ＾ω＾）「……ありがとうだお」
('A`)「何が？」
（ ＾ω＾）「DQNたちにいびられてるの、助けてくれたお。
とても感謝してるお。ありがとうだお」
('A`)「何だ、そんなことか。
別に友達なんだし、当たり前だろ」
ブーンが意を決して謝礼の言葉を述べたとき、
ドクオはさも当然だという風にブーンのことを友達と言った。
それがブーンには嬉しかった。
これまで苛められ続けていた人生の中で、このように言ってくれる人は、
誰一人としていなかった。
他のクラスメイトのように上っ面だけ可哀想という目で見るだけだった。
だがドクオは違った。
そのことが、何より、ブーンには嬉しかったのだ。
766 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 02:35:01.37 ID:/tEuBqLm0
こうして、ニュー速での暮らしが二年ほど経った頃、
三年生となったブーンたちのもとに転入生がやってきた。
（´･ω･｀）「……ショボンです。よろしく」
自己紹介の言葉がそれだけだった彼は、やはりクラスでも浮いてしまった。
初めこそ幾人かの生徒が彼を囲んでいたが、
ショボンは常に無表情で、発する言葉に感情というものが見えなかった。
そのため日が経つにつれ、彼を囲む人々はいなくなった。
しかしブーンのように苛められていたのかというと、そうでもなかった。
DQNたちはブーンという遊び道具をなくし、暇を持て余していたところ、
転入してきた彼を標的にし、体育館裏へと連行した。
ドクオはそれを知り、未だ一度も話したことの無いショボンを助けるため、
急いでそこへ急行した。
勿論ブーンも一緒に駆けた。
そこで見た光景は、ある種とても不思議なものだった。
連行したはずのDQNたちはぼろきれのようになっていた。
ある者は体の部位を手で押さえ、蹲っており、
またある者は体のどこかから血を流し、アスファルトの地面を赤く染めていた。
その中に一人佇んでいたのが、ショボンだった。
771 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 02:47:00.64 ID:/tEuBqLm0
('A`)「ひ、っでぇ……」
ドクオは周りのDQNたちの様子を眺めながら、ショボンに詰め寄った。
('A`)「……おい、さすがにこれはひでえだろ。やりすぎじゃねえか」
佇むショボンの肩に手をかけ、ドクオは言った。
振り向くショボンの体には、返り血だろうか、
赤くべっとりとした液体が付着していた。
視線を下に向けると、腕に、鉄パイプのような太い棒を持っていた。
（´･ω･｀）「……」
ショボンはドクオを一瞥すると、鉄パイプを投げ捨て、一人で歩いて行った。
('A`)「……なんなんだよそりゃ」
ドクオに遅れを取り、後方で待機していたブーンの傍を、ショボンが通った。
その時のショボンの顔は、いつものような感情のないものではなく、
何だか哀しげで、しかし悶々としているような、とても複雑な顔をしていた。
すれ違うブーンに、その表情の意図を掴むことは、出来なかった。
776 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/17(金) 03:02:29.16 ID:/tEuBqLm0
それからいくらか経ち、ブーンたちは受験シーズンに足を踏み入れた。
だがクラスメイトの9割はそのまま同じ敷地内にある高校へ進学するつもりらしく、
ブーンやドクオ、ショボンも例外ではなかった。
穏やかで何事も無く受験戦争は終戦へと近づきかけたその頃、
ある日ショボンが突然登校しなくなった。
担任が言うには、祖父母、そして近縁の親戚の何人かがいっぺんに事故に遭い、
帰らぬ人になってしまったため、ショボンも両親に連れられ、
一旦本島のほうに帰ってしまったらしい。
('A`)「……やっぱりショックなんだろうか」
その話を聞いたドクオは、開口一番そう言った。
あの事件以来ショボンと関わることのなかったドクオだが、
しかしやはりクラスメイトであるショボンを、心配している風に見えた。
ブーンのほうも関わりはなかったとはいえ、
自分も幼くして父親を失くした身であり、
近しい人間が死ぬことの悲しみや恐怖は知っていた。
そのため、ショボンに自分の境遇を重ね、案じていた。
時間とレス番号が変わりますが、ここから先は欠如していたので後日うｐしたものです。
51 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:07:04.38 ID:Dr8L/hn00
しばらくして、ある朝登校すると、ごく当然のようにショボンは教室にいた。
無表情そうな顔は普段どおりのもので、それを見たブーンは安堵した。
一緒に登校したドクオも、ほっと胸を撫で下ろしているように見えた。
（ ＾ω＾）「……きょ、今日はいい天気だおね」
自分の境遇を重ね合わせ、今まで心配していたブーンは、
何気もないように振舞いながら、ショボンに近づいた。
（´･ω･｀）「……え、今雨降って……」
突然の言葉に驚き、しかし即座に外を見て、そう返すショボン。
（ ＾ω＾）「……えーあー……」
いきなりつまずき、元々ドクオ以外の人間とあまり話をしないブーンは、
何かいい言葉はないかと探し始め、何も言えなくなった。
('A`)「……とりあえずな、こいつはお前のことを心配してたんだよ」
ぶっきらぼうにドクオは言った。
52 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:07:38.89 ID:Dr8L/hn00
（´･ω･｀）「え……」
（ ＾ω＾）「じ、自分だって心配してたくせに何言ってるお！」
('A`)「や、いや、俺は心配なんてしてないぞ！
ブーンが心配してたからな、俺もそれを見て心配になったんだ！」
照れ隠しのように顔を赤らめながらかぶりを振ってドクオは必死に否定した。
自分の座る机の前で繰り広げられる、その様子を見ていたショボンは、
（´･ω･｀）「……ありがとう……」
と一言だけぽつりと呟いた。
その意外な一言に、ブーンとドクオは一瞬耳を疑った。
ショボンの顔を覗きこむように見たが、それはいつものショボンの顔だった。
しかしそれ以来、ブーンは何かにつけてショボンを誘うようになった。
都市部に遊びに行こう、だとか、ドクオの家に遊びに行こう、だとか、
一緒に食事をしよう、だとか、そんな具合にショボンを連れまわした。
そのうち、ショボンは段々と二人に心を開き始めた。
そしていつしか、彼らは仲の良いグループを築き上げていった。
53 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:08:00.54 ID:Dr8L/hn00
そんな想い出を、ブーンは思い返していた。
（ ＾ω＾）「……そうだお」
仲良く遊ぶようになっても、
あの体育館ですれ違ったときに似た表情を稀にしていたショボン。
（ ＾ω＾）「だけど、信用できないなんて、そんなこと……」
あっちゃいけない。
ショボンは自分の友達であり、それが通り魔などするわけがない。
（ ＾ω＾）「……よしだお！」
ブーンは決心した。
ショボンを疑う自分を捨て、どんなことがあろうとも、ショボンを信じることを。
そうと決まれば、一刻も早く母の安否を確認し、この地獄から生き延びるだけだ。
ブーンは、走り出した。
54 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:09:18.20 ID:Dr8L/hn00
――弟者――
同日 AM 9:46
ブーンたちと別れて、幾らか歩いた。
学校の傍にある橋を用心しながら渡った。
だが同じような構造をしているこの橋は案外丈夫ならしく、
兄者のときのような、あの二の舞になることはなかった。
（´<_｀ ）「……」
兄者のことを考えた。
兄者はもう母者や父者と再会しているのだろうか。
むしろ、まだ生きているのだろうか。
道端に転がる死体に目をむけ、ふとそんなことを考えた。
このあたりはボランティアの人間が警邏に来ていないらしく、
死体の運搬はまだ行われていなかった。
誰かも分からない死体を見ても、何とも思わなくなった。
それは自然なことなのだろうか。
55 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:10:05.01 ID:Dr8L/hn00
（´<_｀ ）「（今回の地震、何だかおかしい気もする）」
直感的にだが、そう感じた。
自分が知る限り、余震が一度しかない。
普通の地震なら、もう幾つかの余震が起きてもおかしくないはずだ。
それに、これほどの地震なら、大型の津波が島を襲っても不思議ではない。
しかしそれもない。
ネットに繋げず、学校内の他の人間も試していたが、携帯電話も使えない。
これは明らかにおかしい。
（´<_｀ ）「（俺たちの知らないところで何か起きているのだろうか）」
そんな気がして、仕方がない。
だが今は、とりあえず家族の安否を確認することが先決だ。
家族全員で一緒にいれば、何とかなるという気がする。
生きていれば、この先どうとでもなるという気も。
そんなことを思案していると、ふと妹者の顔が脳裏を過ぎった。
（´<_｀ ）「（妹者を一人にしてきて、悪かったかもしれんな）」
自分も家族の安否を気にかけ、こうして探し回っている。
しかし一番幼く、非力な末女を一人にしてしまった罪悪感じみた感情が、
弟者の心の隅に生まれた。
56 ： ◆girrWWEMk6 ：2006/03/25(土) 01:10:59.94 ID:Dr8L/hn00
（´<_｀ ）「（だが、妹者を危険な目に遭わせる訳にもいかんしな）」
そうだ。
妹者を危険な目に遭わせるなど、母者に知れたら
スクリュードライバーやコブラツイスト、マウントポジションでたこ殴りにされる。
その様子を思い浮かべ、気がつくと顔はにやけていた。
母者のあの虐待にも似た躾が懐かしい。
思わず郷愁の念を感じずにはいられない。
（´<_｀ ）「（あの、懐かしい日々に……）」
帰ることが出来る日は、来るのだろうか。
