【9】 ( ^ω^)ブーンが絶体絶命都市から生きて脱出するようです。

141 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:07:07.06 ID:YcPHmfi 0
('A`) 「ブーン……」

あまりに突然の出来事で、ドクオには何がなんだかさっぱりわからなかった。
久しぶりに出会えた友人に何か違和感を覚えたのもつかの間、
その友人はいきなり同じく友人であるショボンを張り倒したのだ。
あれは本気で殺そうとしていた。

('A`) 「そ、そうだ……」

ブーンによって殴られ続けたショボンをみた。
ショボンは鼻や口から血を流していて、片目をやけに細くしていた。
喉の奥から搾り出すようなうめき声をはなっていた。

('A`) 「おいショボン! すぐフサギコさんに診てもらうからな!」

苦しそうにうめくショボンの肩に手を回し、近くにいた若い男と一緒にフサギコ医院へと連れて行った。

ちょうど診察再開というところで現れた傷だらけのショボンの姿を見てフサギコは絶句した。
ドクオが細かいところを端折って訳を説明すると、フサギコは真剣な顔をしてうなずいた。

ミ,,゚Д゚彡「善処しよう」

それを聞いて二人は外に出た。
結局あとはフサギコに任せるしかないのだ。
若い男はそのまま警邏班に合流するといって、道路へと戻っていった。

142 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:12:20.58 ID:YcPHmfi 0
('A`) 「……」

ドクオは一人フサギコ医院の前のコンクリート片に座って考えていた。

あのブーンの様子。違和感の正体。
あれは昔のブーンを彷彿させるものだった。

('A`) 「あのときのブーンに、戻っちまったのかな……」

それはブーンと出会ってすぐのことだった。

他の中学で数ヶ月学んだ結果、引っ込み思案で人見知りのするドクオに友人などできず、
いじめられっ子といういやな役割を受け持ってしまった。

周りの生徒たちはみな小さなコロニーを形成している中、
ドクオだけ孤立無援の学生生活を送っていると、どうやらそれはよく目立ったらしく、
クラスで一番バカ騒ぎが大好きな男子生徒に目をつけられた。

はじめこそ、ただバカ騒ぎの延長でからかわれるだけだったが、
それが徐々にヒートアップしていき、気がつけば上靴に画鋲を入れられていたり、
机の中のものがすべてなくなっていたり、机すらなくなっていたりもした。

引っ込み思案のドクオは口答えができず、苦しみの毎日を過ごすだけだった。

日に日に元気をなくしていくドクオの姿を不憫に思ったドクオの母は、
新しくできた人口島、ニュー速の学校に転入させることを提案した。
ドクオは少し迷ったが、大きくうなずいた。

143 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:22:37.48 ID:YcPHmfi 0
こうしてドクオはこの島にきた。
同日の転入者はドクオのほかに二人いた。
一人は女の子だったため、ドクオは話しかけづらく、もう一人の男子生徒に話しかけることにした。

久しぶりに自分と同年代の男子に話すことは、ドクオには少しつらかった。
また失敗して転入早々いじめられっ子になることが怖かった。
だからドクオは少し気が大きい男子生徒として話しかけることにした。
あの自分の忌み嫌っていたお調子者の男子生徒のように、どちらかというと横柄なしゃべり方を真似てみた。

('A`)「……よ、よう。お、俺ドクオってんだ。よ、よろしく」

真似してみたところで、結局ドクオはドクオで、そこまで横柄そうな感じはでなかったし、
ところどころ上ずり、心なしかどもっていた気がする。

ドクオが話しかけた男子生徒は、弱気そうな顔だった。
だが返す言葉はその顔からは想像できないくらいこなれたものだった。

( ^ω^)「お、ドクオかお。俺はブーンっつーんだお。よろしくお」

このブーンという少年は、語尾におをつけるおかしいヤツとして、
転入早々いじめの対象にされようとしていた。
同じくいじめられっ子だったドクオには、その雰囲気が読み取れた。
ドクオはブーンという少年が避雷針となり、いじめの対象にはならなかった。

144 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 02:37:21.25 ID:YcPHmfi 0
ある日、クラスのDQNたちがブーンを体育館裏に呼んだ。
よってたかって暴力沙汰でも起こすのか、それともねちねちと罵るのか。
ドクオはそのどちらかだと判断できた。
自分がそうだったからだ。

DQNたちに囲まれるようにブーンは連行された。
その様子を見ていたドクオは、どうするべきか迷った。
自分と日を同じくして入学した少年がつらい思いをしようとしている。
そう考えると、ドクオはそれをとめるべきか、見過ごし傍観すべきか、迷った。

あの前の学校で行われていた自分へのいじめの最中、
ドクオは自分を助けてくれる味方がほしかった。
誰か助けてくれ。誰か俺をこの地獄から救い出してくれ。
そればかり思っていた。

だが現実は非情だった。
誰もドクオを助けることなく、ただいじめられるだけの日々だけが過ぎていった。

そして今、それが自分ではなくブーンへと移されようとしている。
自分がいじめの最中思っていたこと――助けてくれという思いを、
ブーンも抱くかもしれない。
それを無視していいのだろうか。
あの日の自分のようなつらい思いをさせてしまってもいいのだろうか。

ドクオは迷った末、立ち上がり、体育館裏へと向かった。
ドクオは臆病で、ただ無力だったが、救いの声を見過ごせるほど強者でも弱者でもなかった。

148 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:12:10.23 ID:YcPHmfi 0
だが向かった先の体育館裏で、ドクオは唖然とした。
DQNがみな一様に血を流し、倒れていたのだった。
それだけでなく、倒れたDQNの横腹に罵声を上げながらつま先で蹴りあげていた。

( ^ω^)「なんだこの雑魚はお! さっさと立ち上がって反撃するお!
      まだ子どもがおねんねするにも早い時間だろうがお!」

その蹴りは容赦なくDQNの腹にめり込んだ。
うめくこともできなくなったDQNは為されるがままにその蹴りを受け入れていた。

ブーンの罵声は次第に笑みへと変わっていった。
口から漏れる笑い声は体育館裏の小さな空き地に響いた。

( ^ω^)「ウヒヒヒ! こうやっておとなしくしてりゃ、お前らみたいなバカがよってくる!
      その自信満々な鼻をへし折ってぇ、引きちぎってやるのが楽しみなんだお!」

蹴りの対象をDQNの腹から顔になった。
鼻や口からは大量の血が流れ、顔はところどころへこんでいるようにもみえた。

( ^ω^)「ブヒヒヒヒヒヒ! 次は男の大事なところでも潰していってやろうかお! ええっ!」

そういいながらブーンはDQNの股間を思い切り踏み潰そうとした。
意識のないDQNは何も答えられず、ブーンは嬉々として足を落とす――

('A`) 「や、やめろって」

ところでドクオが飛び出した。

150 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:31:49.87 ID:YcPHmfi 0
倒れているDQNたちがかつて自分をいじめていた連中とダブって、
はじめこそいい気味だとか思ってみていた。

でもこれは違う。
やりすぎだ。
自分が受けた苦しみ以上のことを、ブーンはしようとしている。

( ^ω^)「ドクオかお……」

('A`) 「こ、これはっ、やりすぎ、だろ……!」

ドクオはこの惨状に、そしてそれを引き起こしたブーンに対し、恐怖していた。
舌はうまく回らず、喉からしぼりだすように必死になっていった。

そんなドクオを、ブーンは横目でみた。
何を考えているかわからない感情のない、
あるいはさまざまな感情が複雑に入り混じっていたのかもしれないその瞳に、
ドクオはますます恐れおののいた。

だがそれでもドクオは引き下がらなかった。
ここで引き下がることは、敗北にも劣ることだと思えたからだった。

153 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:40:13.61 ID:YcPHmfi 0
( ^ω^)「……」

('A`) 「……」

無言のまま、どのくらい時間が経っただろうか。
突然、ブーンは足を下ろし、つぶやいた。

( ^ω^)「まあ、やりすぎかもなお」

あまりに聞き分けが良いブーンに、一瞬ドクオは虚を突かれた感触があった。
疑問符が頭の上に出現しそうになるのを必死にこらえた。

( ^ω^)「何バカみたいな面してんだお。さっさと帰るお」

ブーンはそういうと、ドクオの横を通り、さっさと一人で帰路へと着いた。
その場に残されたドクオはこの惨状を教師たちに報告しようか迷ったが、
そうすればブーンの仕業ということがばれ、停学とか自宅謹慎処分になるかもしれないと考え、
どうせDQNたちが自分たちからはじめたことなのだからと、その場において帰ることにした。

いじめられる側の気持ちが少しでもわかればいいのだが、とドクオは心でつぶやいた。

154 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:48:21.42 ID:YcPHmfi 0
結局体育館裏で返り討ちにされたDQNたちは、四人中二人が病院送りとなった。
だがブーンが処分されることはなかった。
DQNたちも自分たちがいじめようとして逆に返り討ちにされたなどと説明するのは、
恥ずかしいことだと思ったのかもしれない。
結果、ブーンの起こした惨劇はみなに知れ渡ることはなかった。

それからブーンはだんだんと横柄な態度を取るようになった。
DQNたちをパシリにしたり、クラスメイトにばれないように暴力沙汰を起こしているようだった。

ドクオとしては距離を置いて付き合っていきたい人間の対象となっていたが、
ブーンは妙にドクオを気に入っていたらしく、何かあるとすぐにドクオを誘った。

( ^ω^)「ドクオ、ゲーセンいくおゲーセン」

( ^ω^)「都市部いって遊ぶお。学校なんかふけちまうお」

( ^ω^)「今日はカバンが重いお。おいDQN、これ持てお。ドクオもこいつらにカバン持たせるお」

( ^ω^)「ドクオー」

ブーンはドクオを完全に対等の存在として扱ってくれているらしかった。
それが何故なのか、ドクオにはわからなかったが、
今まで引っ込み思案で背の低いドクオを対等に扱ってくれる同年代の生徒などいなかったから、
それがとてもうれしかった。

だがブーンのDQNや、他のクラスメイトに対する強気な態度は、
かつて自分をいじめていた人間らを思い出させ、それと行動を共にするのは、
如何ともしがたかった。
自分が前の学校のあの人間たちと同様の存在になったように思え、ただ嫌悪しか覚えなかった。

155 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 03:56:04.27 ID:YcPHmfi 0
そしてある日、いつものように、DQNたちにカバン持ちをさせて下校していたときのことだった。
ブーンとドクオは肩を並べ歩き、
その後ろにDQNたちがかしこまったように二人のカバンをもって歩いていた。

何か口を開こうとするDQNに、ブーンは下僕が勝手に喋るな、と一喝した。
そういうことは何度かあったが、そのたびドクオはさすがにDQNたちが哀れに思えてきた。
それに自分のやっていることが本当にいやになってきたのだった。

( ^ω^)「あ? 何陰気そうな顔してんだおドクオ」

ふざけてにやけるその顔を見たとき、ドクオの日々膨れ上がっていた思いが破裂した。

('A`) 「……こういうの、良くねえよ……」

ブーンから顔を背け、つぶやくようにいった。
ブーンは一瞬ドクオが何を言っているのかわからない、という表情をしたが、
その後、無感情な声だけが返ってきた。

( ^ω^)「……なんかいったのかお?」

にやけ面はすっと消え、ただ無表情な顔になった。
細くなった目からは感情が読み取れず、ドクオは恐ろしくなったが、
いったんいった手前、それを撤回することは敗北を意味していたため、
自分の言葉を引っ込めることなく更にいった。

('A`) 「……こういうこと、やるのは、間違ってると思う……さすがに……」

消え入りそうな声だったが、さえぎるものはなく、確実にブーンに聞こえた。

157 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:02:48.63 ID:YcPHmfi 0
( ^ω^)「……でもお前は、いじめられてたんだお? 見た目そんな感じだもんなお。
      毎日こんな風にされたんだろうがお。
      そんで、それと同じことをしようとした連中が、自分と同じ目にあって、
      かわいそうだとか思ってんのかお?」

('A`) 「だからって、俺たちが同じことしていい理由にはなんねえだろ。
   そりゃ憎いさ。怒りだってある。憎悪しかない。
   でも俺がそれをやったら、そのまま俺も憎悪の対象にしかならないだろ……!」

まくし立てるようにいった。
それを聞いたブーンの表情は変わることはなく、その様子をDQNたちは固唾を呑んで見守っていた。
ただ時間だけが流れた。

( ^ω^)「……だったら、もうお前は誘わねえお」

それだけいって、ブーンはまたDQNたちを伴って歩き始めた。
DQNたちは何か言いたげな顔でドクオを見たが、ブーンに怒鳴られて歩速をあげた。

あの時と同じだ、とドクオは思った。
あの体育館裏でブーンと対峙していたときと、同じだ。

でもあの時と決定的に違っていることがあった。
それは、ブーンと自分は別々の道を歩き出したということだった。

160 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:13:26.08 ID:YcPHmfi 0
その日から、二人が話すことはなくなった。
教室でも帰り道でも無言ですれ違うだけだった。

だがブーンは、その圧倒的な力、権力を持っていながらも、
ドクオを苛めることはなかった。
もとは自分の友人だったから、という思いがあったからなのだろうか。
ともかく、ドクオとブーンは話し合うこともなく、苛むこともなく、接触しあうこともなく月日は経った。

そうして三年生になってすぐ、転入生がやってきた。

(´・ω・`)「……ショボンです、よろしく」

転入生の挨拶がそれだけだった味気のない少年は、早速ブーンに話しかけられた。

( ^ω^)「よう、俺ブーンってんだお。よろしくなお」

DQNたちを下僕として従えていた以外、対等の友人などいなかったブーンは、
ドクオに代わる友人がほしかったのかもしれない。

だがそのショボンという少年が、ブーンの言葉を聞いて、返した言葉はこうだった。

(´・ω・`)「語尾におなんて、変な人だね」

もちろんブーンはその言葉に憤慨し、いきなり殴りかかった。
DQNたちはとめようともしなかった。いや、ブーンに恐れ、できなかったのかもしれない。

161 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:20:34.87 ID:YcPHmfi 0
見るに見かねたドクオがブーンを後ろから羽交い絞めにした。

('A`) 「おい、やめろよ! いきなり殴るなんて、おかしいだろ!」

( ^ω^)「逃げたお前にぐだぐだ言われる謂れはねえお! 黙ってすっこんでるお!」

逆上したブーンはドクオの制止を振り払い、またもショボンを殴り続けた。
結局、ドクオをはじめ、他のクラスメイトらが強引に押さえつけ、ようやくとまった。

( ^ω^)「くそっ、放せお!」

五人がかりで押さえつけられていたブーンは、なおもわめき続けた。

その事件以来、ブーンとショボンの対立は日に日に増すばかりだった。
ショボンも最初こそ悪気はなかったようだが、ブーンの態度に怒りを募らせているようだった。

162 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:33:40.86 ID:YcPHmfi 0
ある日ショボンは、DQNたちに呼ばれ、連行された。
ブーンの差し金であるということは、容易に想像できた。
ドクオは迷ったが、以前友人だったブーンに、これ以上高圧的な行為をさせることが許せなかった。

急いで連行された先、体育館裏に向かったが、
またも目に入ってきた光景は、あの時と丸きり変わらないものだった。

倒れ、うめき声をあげるDQNたち。
そのDQNたちが作り上げる円の中で、ブーンとショボンが対峙していた。
二人の顔は腫れ上がり、鼻血をだらしなくたれ流していた。

息は上がり、これまで必死の攻防を繰り広げていたのは想像に難くなかった。

( ^ω^)「……ショボン……!」

(´・ω・`)「……うざったい……」

肩で息をしていた二人の間に、ドクオが割って入った。

('A`) 「おい、やめろよ! やめろ! ケンカにも限度ってもんがある!」

だがドクオは無力だった。
ブーンの蹴りが腹に決まり、ドクオはそのまま崩れ落ちた。
勇気を振り絞ったところで、ブーンの前では、ドクオはただ無力な弱者だった。

( ^ω^)「邪魔するんじゃねえお……!」

(´・ω・`)「……」

163 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:48:33.44 ID:YcPHmfi 0
視界がかすむ。
いい具合にみぞおちに決まった蹴りによって、胃液が逆流し、口からこぼれた。

('A`) 「や……めろ……」

胃液をこぼす口で、必死に訴えるも、かすれた声は言葉にならなかった。
それでも出せる力を振り絞って、ブーンの足にすがった。

( ^ω^)「……小うるさいヤツだお……」

足を何度も振り、必死に払おうとするがドクオは勇んで放さなかった。
それでも放そうとしないドクオの姿を見て、ショボンは校門のほうへ歩き始めた。

( ^ω^)「おめえ、逃げるのかお!」

気付いたブーンが叫び、引きとめようとするがショボンは振り返ることなく姿を消した。

164 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:50:13.38 ID:YcPHmfi 0
( ^ω^)「……くそっ! お前が! お前がこんなことしなけりゃ、殺してやったのに!」

ブーンはそういって、ドクオを蹴り飛ばした。
ドクオはうめき声すら上げられず、意識はすでに消えかかっていた。

その様子を見止めたブーンは、更なる追撃をかけようとした足を止め、
ぼろ雑巾のように転がるドクオを伏し目がちにみた。

( ^ω^)「……くそ、俺を拒絶しやがって……くそっ……」

それが、ドクオの聞いた最後の言葉だった。
消えかけた視界では、それをつぶやいたブーンの表情をつかむことはできなかった。
だがとても寂しそうに聞こえた。

そのすぐ後、意識は海底に沈みこむように掻き消え、世界は闇にまぎれた。

165 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 04:55:55.20 ID:YcPHmfi 0
次に目を覚ました時、ドクオは保健室のベッドの中にいた。
最初に目に飛び込んできたのは、担任教師のモララーだった。

( ・∀・)「……大丈夫か?」

('A`) 「……大丈夫だったら、こんなとこにはいませんよ……」

( ・∀・)「軽口聞けりゃ、大丈夫か。いったい何があったんだ? ケンカか?」

('A`) 「……」

ドクオは答えあぐねた。
ここでブーンによる、第三者への暴力ということが学校に知れれば、
ブーンは停学、下手をすれば前回の暴力事件も合わさり、退学ということにもなりうるかもしれない。

とめにはいって、突然蹴りかかって来たブーンに恨みがないわけではない。
だが最後に聞いたブーンのあの言葉を思い出すと、あの寂しそうな声が妙に気にかかった。

('A`) 「……ええ、俺とDQNらで、とびきりのAVを争って、ケンカしちゃったんですよ」

切れた唇を無理やりにゆがめてにやけ面をつくった。
モララーは一瞬顔をしかめたが、そのことについて何も言及せず、

( ・∀・)「AVはせめて高校生になってからにしろ。あとそれ、いつか貸せよな」

といっただけで、あとは他愛のない会話をするだけだった。
モララーは事実を知っていながら、あえてドクオの考えを汲み取ったのだろうか。
その真否はわからなかったが、結局この件はうやむやのまま、終わった。

167 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:01:15.33 ID:YcPHmfi 0
次の日、ブーンとショボンはいがみ合う事もなかったが、話しているところもなかった。
ドクオのときとまったく同じだった。
ショボンは相変わらず無表情で本を読んでいたし、
ブーンはブーンでショボンの存在を頭から無視しているようだった。

何もなければそれはそれで不安だったが、だが何かが起きるよりもずっと良かった。
このまま平穏な日々が続きますように、とドクオは心から願った。

そして月日は経ち、ドクオたちは受験戦争真っ只中にいた。
だが受験戦争とは名ばかりで、実質クラスのほとんどはそのまま高等部へ上がることになっていたので、
ごく少数の受験派以外はこれまでと同じくのほほんとした生活を送っていた。

この間にも、ブーンとショボンの確執じみたいさかいはなく、
クラスのみなもドクオも、平穏無事な日々を謳歌していた。

そんな時、ショボンが登校しなくなった。
モララーは、ショボンの親戚が一度に大勢事故で亡くなってしまった為、
一度本島に戻っている、と説明した。

それを聞いたドクオは少しばかり心配になった。
ブーンとの確執があったとはいえ、同じクラスメイトなのだ。
その親戚一同が亡くなったというのは、さすがに心配になるのも無理はない。

171 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:07:02.97 ID:YcPHmfi 0
ブーンはというと、やはり知らん顔だった。
だがその瞳の奥に、何か考え込むようなものを感じた。
感覚的で、何か裏付けがあるものではなかったが、確かにそう思えたのだ。

何日かして、不思議なことが起きた。
ブーンも登校しなくなったのだ。
これまで早退や遅刻はあったものの、毎日来ていたブーンの姿が消え、
ドクオも、いびられていたDQNたちも面食らった様子だった。

まあ一日くらい、と高をくくっていたのだが、
次の日も、その次の日もブーンは登校してこなかった。

ブーンが登校しなくなってから数日が経った後、モララーは朝のホームルームで
ブーンの単身赴任中の父親が危篤状態だから、と説明した。

だがそのタイミングはショボンの不登校とあまりにも合いすぎていた為、
クラスでは二人の間に何か問題が起きたのではないだろうか、と勝手な憶測が飛び交った。

ドクオもそう感じていた節があったのだが、あえて何もいわなかった。
勝手な憶測だとか、そういうのがあまり好きではなかったということもあったのだが、
何より二人のことが心配だったから、余計なことはいいたくなかったのだ。

不仲になったとはいえ、自分のクラスメイトと、元友人だった人間だ。
心配にならないわけがない。

172 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:13:11.32 ID:YcPHmfi 0
それから一月が経った。
雨の降る日、ドクオがいつも通り登校していると、後ろから声をかけられた。

( ^ω^)「……はぁ……はぁ……おはようだお!」

息を乱しながら走りよってきたのはブーンだった。
突然フレンドリーに話しかけられ、ドクオは面食らった。

( ^ω^)「ん? どうしたお?」

不思議そうにドクオの顔を覗き込むブーン。
久しぶりに話した友人の様子に、ある種の気味の悪さを感じたが、
冷静を装い、上ずった声で挨拶を返した。

('A`) 「あ、ああ、おはよう。親父さん、どうなったんだ……?」

ドクオの挨拶に混じった問いに、ブーンははっとし、うつむいた。
どうやら、峠を越せなかったらしい。

('A`) 「あ、す、すまん……」

( ^ω^)「いや、いいんだお……どうせ、あまり記憶になかった人だお……」

口ではそういっていたものの、どう見てもそれはどうでもいいという風には見えなかった。
そのままのムードで、ブーンとともに教室にはいった。

教室には、懐かしいクラスメイトの姿があった。

('A`) 「ショボン……」

173 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:14:49.34 ID:YcPHmfi 0
ショボンはその普段通りの無表情な顔で、机に着いていた。
ブーンが登校し始めたその日に、ショボンも登校してきた。
そのあまりにいいタイミングに、少し疑心がわきあがってきた。
この二人、何か関係があるのだろうか。

ドクオがそんなことを考えていると、ブーンがいきなりショボンに話しかけた。

( ^ω^)「……きょ、今日はいい天気だおね」

ドクオは驚いた。
まったく会話の発端にもならない言葉だったが、
いつもの敵意はまるっきりなく、どこか余所余所しいながらも、まじめに話しかけているようだった。

突然話しかけられたショボンは、驚いたように体をそらしたが、即座に外を見ていった。

(´・ω・`)「……え、今雨降って……」

その返答にも驚いた。
これまで敵意を丸出しにされていたのに、
当然のように素で返すショボンの態度は、不思議なものだった。

( ^ω^)「……えーあー……」

ブーンは真剣に会話の種を探そうとしているのはすぐに分かった。
さっぱり理解できない状況ながらも、ドクオはとりあえず助け舟を出すことにした。

174 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:15:26.12 ID:YcPHmfi 0
('A`) 「……とりあえずな、こいつはお前のことを心配してんだよ」

(´・ω・`)「え……」

虚を突かれた顔のショボン。

( ^ω^)「じ、自分だって心配してたくせに何言ってるお!」

('A`)「や、いや、俺は心配なんてしてないぞ!
   ブーンが心配してたからな、俺もそれを見て心配になったんだ!」

自分で言ってから、気付いた。
ショボンが登校しなくなった日のブーンのあの顔。
あれはショボンのことを心配していたのではないだろうか。
いくらいがみ合っていたとしても、やはりショボンのことが心配だったのではないだろうか。

ドクオとブーンの掛け合いを見て、ショボンは一言だけ、ありがとうとつぶやいた。
その言葉にも、いちいち驚くドクオだった。

ブーンとショボン、そしてドクオの三人が仲良くなったことは、クラスの中では事件として扱われた。
人当たりが良くなったブーンは、DQNたちを下僕扱いすることもなくなった。

ブーンは食事の際、ドクオとショボンを誘った。
都市部に遊びに行こうと二人を誘った。
積極的に三人で遊ぼうとし、いつしかドクオの中の疑問もなくなった。
ショボンも次第に心を開くようになり、三人の仲はますます深まっていった。

176 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:16:48.18 ID:YcPHmfi 0
('A`) 「……それなのに、ブーンは、また……」

あのすさんだ時期のブーンに戻ってしまった。
この地震が起き、自分の知らないところで、一体何があったのだろうか。
ドクオは頭を抱え悩んだが、何もわからなかった。

そうやって考えているうち、かなりの時間が経った。
だがショボンはフサギコ医院から出てこなかった。

('A`) 「……死ぬような怪我じゃ、ないよな……」

そうは思ったが、やはり心配になってきたドクオはフサギコ医院を覗いてみることにした。
診療室にショボンの姿はなく、いったん仕事に区切りがついたフサギコが小休止を入れているところだった。

ミ,,゚Д゚彡「お、ドクオくん。どうしたんだ?」

('A`) 「いやあの、ショボンはどうしたのかなって……」

ミ,,゚Д゚彡「ショボンくん? さっき治療を終えて、部屋から出て行ったんだけど……」

フサギコがそういうと、そばにいた看護士が思い出したように付け加えた。

「ショボンくんならトイレにいったよ」

その言葉を聞き、ドクオはトイレにいってみた。

177 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/05(水) 05:17:08.38 ID:YcPHmfi 0
だがトイレの個室はすべて開け放されており、トイレのどこにもショボンの姿はなかった。
小さなガラス窓は開けっ放しになっており、その窓の外には、二つの足跡があった。
飛び降りたときの重みでついたものだろう。

('A`) 「あの野郎……っ」

つまり、ショボンはトイレからこのフサギコ医院を出て、どこかへ向かったということだ。
今のショボンが向かう先はただ一つ。
自分を殴ったブーンのもとだろう。

突然自分を殴った報復か、それ以外に何か意図があるのか分からない。
だがブーンはあの時、ショボンを殺すといった。殺意もあった。
だから、ほうっておくわけにはいかない。

ドクオはすぐさまフサギコ医院を飛び出し、ブーンの消え去ったほうへと走り始めた。
日は高く、昨日に比べ、比較的暖かい時間だった。

477 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:25:34.61 ID:KoR2TBeQ0
――ギコ――
同日 12:43

ギコがニュー速グラウンドに着いたとき、そこには文字通り何もなかった。

(,,゚Д゚)「……」

いや、あるにはあった。

(,,゚Д゚)「なんなんだこりゃあ……」

ニュー速グラウンドと言われた場所に、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
そこに水が流れ込み、巨大な湖のようなものができあがっていた。

(,,゚Д゚)「……ニュー速にこんなところ、ないよな……」

突然の出来事に、さすがのギコも順応することができなかった。
端から崩れていくと思われていたニュー速が、いきなりど真ん中から崩れてしまったのだ。

(,,゚Д゚)「これじゃ、どこにいても危険じゃねえかよゴルァ……」

絶望にも似た虚脱感が浮かび上がったとき、ギコの脳裏にあることがよぎった。

(,,゚Д゚)「……しぃは? 先生は?」

はっとして、湖のほうへ駆けた。

478 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:26:07.19 ID:KoR2TBeQ0
(,,゚Д゚)「しぃ! しぃ! 先生! どこだよゴルァ!」

走りながら叫んだ。
だが返ってくる声はなく、ギコの発する音だけがあたりに響いた。

(,,゚Д゚)「……なんなんだよ……どこにいるんだ……
    もしかして、この湖……」

湖をのぞきこんだ。
湖の端から流れ込む海水は、だんだんと湖の水位を上げていたが、
まだ現段階の湖の水位自体は淵から地下10メートルほどの高さまでだった。

ギコは肩を落とし、グラウンドに背を向けた。
足取りは重く、全身に力が入らない。

認めなくなかったが、しぃと先生の二人がいなくなって、分かった。
――俺は、二人のことが好きだったのか。
恋愛感情とか、そういうちゃちなものではなく、
自分の薄幸な人生の中で見出した、初めて気の許せる仲の人間だった。

その二人が所在不明となった今、ギコの心に、
このニュー速グラウンドのように、大きな穴がぽっかりとあいた。

何もできない。
ただうなだれるしかなかった。
えらそうなことをいってても、結局ギコは頭の先からつま先まで無力な子どもだと
理解してしまった。

480 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:27:25.42 ID:KoR2TBeQ0
(,,゚Д゚)「……くそっ……」

喉に違和感があった。
涙が出そうになる。
もう誰もいなくなってしまった、いっそのこと大声で泣いてしまえば楽になるかもしれない。
そうギコは考えた。

(,,゚Д゚)「しぃ……先生……」

「呼んだか?」

声がした。
聞こえなれた声。
聞きたかった声。

( ・∀・)「よう、無事だったんだな」

(,,゚Д゚)「せ、先生……」

いつの間に現れたのか、こうべを垂れていたギコの目の前にモララーはいた。
タバコの紫煙を口から吐き出しながら、右手を軽く上げた。

( ・∀・)「どうしたよ。幽霊見たように固まっちまって」

(,,゚Д゚)「……生きて、たのか……」

( ・∀・)「なんだよ、死んでてほしかったのか?」

(,,゚Д゚)「んなわけねえだろゴルァ!」

481 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:28:16.42 ID:KoR2TBeQ0
ギコは迷わず駆け寄った。
先ほどまで重かった足取りは嘘のように軽かった。
全身の虚脱感はまるっきり影を潜め、今なら無愛想なギコでも喜びで顔をほころませそうだった。

( ・∀・)「おかえり」

(,,゚Д゚)「た、ただいま、だぞ、ゴルァ……」

自分より背の高いモララーを見上げるほど近くに寄った。
久しぶりに見る恩師の姿は、当然だが、ぜんぜん変わらないものだった。

( ・∀・)「おう。それで、頼んでいたあれはどうだったんだ?
      その小脇に抱えてるやつか?」

モララーが人差し指と中指に挟み込んでいるタバコで、
ギコの脇に抱えられてる書類袋をさした。

(,,゚Д゚)「あ、ああ、そうだ。これがたぶん、あんたが言ってたやつだよ。
    ちゃんと中に図面らしきものもあったしな」

そういって、脇に挟んでいた書類袋をモララーに差し出した。
モララーはそれを受け取り、中身をぱらぱらと確認しながらうなずいている。

482 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:31:08.37 ID:KoR2TBeQ0
(,,゚Д゚)「そ、それよりさ、これ、どうなってんだよ!
    なんでいきなりグラウンドが消えちまってるんだよ!」

( ・∀・)「……ありがとうな。たしかにこれで合ってる。
      よくやってくれたよギコ。さすがは俺の生徒だ」

(,,゚Д゚)「おい、そんなことより、どうなってるんだよこれは!」

モララーは一拍置き、ギコの目を真正面から見ていった。

( ・∀・)「みんな死んだ」

(,,゚Д゚)「え……」

( ・∀・)「と、いったら、お前は納得するか?」

問いかけるようにモララーはいったが、
その声と表情はギコの導く答えを先読みしているようだった。

(,,゚Д゚)「そんなわけねえだろゴルァ!」

ギコはもちろん憤った。
自分が真剣に聞いているのに、モララーは軽い冗談をいうようにはぐらかしたからだ。

483 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:31:48.66 ID:KoR2TBeQ0
モララーは歪ませていた口元を固く縛り、ギコを見た。
今まで見たことのない恩師の真剣な表情に、ギコは虚をつかれた。

(,,゚Д゚)「な、なんだよ……」

( ・∀・)「……ニュー速総合病院なら、間もなく救助ヘリが来るだろう。
      お前はそこに行って救助を受けろ。
      そして、もうこの件について首を突っ込むな。
      何を聞かれても、逃げるのに必死だった、とでも答えて生きろ」

(,,゚Д゚)「な……!」

( ・∀・)「じゃあな。書類のことは、本当に感謝する。
      これがあれば、これさえあれば……」

(,,゚Д゚)「先生、あんたが俺を……」

そのとき、上空から大きなプロペラ音がした。
次いで細かな砂煙が巻き上げられ、ギコは思わず目をかばった。

「……しぃちゃんは無事だ。だから、もう彼女のことは諦めろ」

モララーの声が、プロペラ音に紛れてギコの耳に届いた。
ギコが目を開けたときには、モララーは降りてきたヘリコプターに乗り込んでいた。

(,,゚Д゚)「な、なんだよそりゃあ! モララー!」

ギコは声を張り上げて叫ぶが、モララーはまったくギコを見ようとしなかった。

484 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:33:10.38 ID:KoR2TBeQ0
(,,゚Д゚)「先生ぇーっ! モララー、あんたは俺を裏切ったのか!」

ヘリコプターの中のモララーはヘリのパイロットに何かを告げていた。
その口が止まると、ヘリは次第に上昇を始め、またも砂煙を巻き上げながら
中空へと浮かび上がった。

(,,゚Д゚)「モララァーっ! お前は! お前ぇーーーーっ!」

ヘリはそのまま、上空に上がり、西のほうへと彼方へと飛び去った。
モララーは最後までギコを一瞥することもなく、ヘリと共に消えた。

(,,゚Д゚)「くそったれえええええええ!」

ギコは叫んだ。
恩師だと思っていた男は、自分をいいように欺き、そして裏切った。
今まで自分に良くしてくれていたのは、こういうことだったのか。

許せなかった。
自分が慕われていることを知っていながら、それを利用したのだ。

(,,゚Д゚)「俺の気持ちを踏みにじった、土足で、容赦ねえんだなあおい……!」

こみ上げる感情は、裏切られたショックなどより、怒りのほうが純粋だった。
心のほとんどを怒りが支配し、突き動かされる衝動はすべてモララーに対する恨みだけだった。

485 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/08(土) 03:33:35.38 ID:KoR2TBeQ0
モララーは最後に、しぃのことは無事だから諦めろといった。
つまり、ヤツの向かう先にしぃはいるかもしれない。

ギコはそう考え、モララーの乗ったヘリが飛び去った方角を見た。
そこは都市部でも高層ビルが多く林立しているところがあった。

ヤツの欲しがった図面に記載されていた、P4という場所がその地域にあった。
P4は、サスガビル。
あの地域一帯の中でも一番高く、屋上にはヘリポートがある。

何かの因果だろうか。
別れた矢先、またジョルジュたちと同じところへ向かうことになるなど、
思っても見なかった。

(,,゚Д゚)「この恨みは必ず……」

晴らしてやる。
あいつの好きなようにはさせない。
必ずモララーの思い描く野望か何かを打ち砕き、しぃを助けて生き延びてやる。

ギコは、そう誓った。

563 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:31:28.80 ID:9tPN6dkR0
――ジョルジュ――
同日 PM 00:43

( ゚∀゚)「くそっ! おい、兄者、こっちだ!」

( ´_ゝ`)「わ、わかってる……!」

鳴り響く地響き、うなる大地。
地は割れ、裂け目へと建造物は吸い込まれていく。
流れ込んだ川の水は滝となって流れ落ち、ところどころ足場は崩落していく。

( ゚∀゚)「なんなんだいきなり……」

( ´_ゝ`)「島が崩れだしたんだ。ギコも言ってただろ、東の海岸沿いは沈んでいったって」

島の崩落に巻き込まれないよう、走りながら会話していた。

567 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:40:48.42 ID:9tPN6dkR0
( ゚∀゚)「海岸沿いだろ! 内側から崩壊するもんなのか!?」

( ´_ゝ`)「わからん! でも現に足元が崩れ始めてる!」

固まった大地の崩れる音は鳴り止むことなく続く。
林立するビルはその震動などの影響で横倒れになっていく。
倒れた先にまたビルがあるところなど、ドミノ倒しのように
連鎖的に、しかし行儀悪く倒れていった。

壊れたビルから大小いろいろな形のコンクリートが降ってくる。
比較的小さな欠片でも、都市部の中でも高層ビルが多く存在するこの地域では、
高さと相まって重力に引かれ威力を増しており、
文字通りそれらはアスファルトの大地をうがった。

当たっただけでもおそらく致命傷になるであろう破片が雨のように降り注いでいた。
足を止めるのはもちろんのこと、運が悪ければ気付いた瞬間あの世にいるという
由々しき事態も起こりうる。

二人はただ神に祈りながら走り続けるしかなかった。

569 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 00:51:33.08 ID:9tPN6dkR0
( ゚∀゚)「うおっ」

祈っていると、自分の真横数センチに、自分の頭ほどのコンクリート片が落下してきた。
祈りのおかげなのか、祈りに気をとらわれていたせいなのか。

( ´_ゝ`)「いらんことは考えるな! とにかく走れ!」

( ゚∀゚)「言われんでも!」

( ´_ゝ`)「むおっ」

今度は兄者の鼻先をかすめた。
あまりに突然の出来事に一瞬立ち止まってしまうが、
そのコンクリート片が砕ける音で気を取り直し、再び走り出した。

( ゚∀゚)「こりゃもう……ほとんど……運じゃねえか……!」

( ´_ゝ`)「だから……最初っから、そう、言ってるだろ……!」

571 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:08:05.38 ID:9tPN6dkR0
事の発端は十分ほど前のことであった。
サスガビルを目指していたところ、足元に小さな揺れを感じた。

二人は咄嗟に身構え、地にしゃがみこんだ。
続く大きな地震に備えての行動だった。

だが少し経っても何も起きない。
ジョルジュたちは首をかしげながらも、ギコから聞いていた島の倒壊による局地的な震動だと結論付けた。
立ち上がり、一刻も早くサスガビルにたどり着けるよう、速度を上げて歩き始めた。

その直後のことである。

突き上げるような震動が起きた。
二人とも気が付けば体が浮かんでおり、次の瞬間には全身をアスファルトに叩きつけられていた。
背中に感じる疼痛にもだえる暇も無く、地にひびが入り始め、苦しみながらも走り始めた。

それが今回の逃避行の始まりだった。

577 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:26:02.32 ID:9tPN6dkR0
( ゚∀゚)「こ、このまま逃げ続けても、サスガビルから離れちまうんじゃねえか!?」

( ´_ゝ`)「……はぁ……いや……この道なりに行けば……サスガビルのはずだ……
      むしろ近づいてるはずだが……はぁ……はぁ……
      問題は……サスガビルまで倒壊してしまうんじゃないかって、ことだ……」

力の続く限り走り続けた。
体にうずく痛みは、走っているうちに影を潜めた。
いや、痛み自体はかすかに感じるが、それを気にしていては走ることなどできない。
そうなれば自分の人生の幕は閉じられるということを、二人は痛みに実感していた。

足元に次々と亀裂が走った。
それはまるで意思あるもののように二人を追いかけてくる。
亀裂は時間が経つとともに横に開き、次第に大地の裂け目を作り始めた。
十中八九、落ちれば死ぬ。

( ´_ゝ`)「はぁ……はぁ……」

( ゚∀゚)「……」

言葉を紡ぐことも困難になってきた二人は、息遣いを荒くしながら走った。
倒れるビルに巻き上げられる砂埃が目にはいりそうになる。
それを手で覆い防ぎながらも、ただただ、ひたすらに走った。

578 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 01:37:32.39 ID:9tPN6dkR0
( ゚∀゚)「……はぁ……はぁ……」

立て続けに起こる崩落音のせいか、耳鳴りがする。
遠くで聞こえるような微妙な違和感も、そのせいなのだろうか。

耳に聞こえる音が遠く、淡く、曖昧に聞こえるためか、
何故だか風呂上りに起きる目眩のときのような、現実味のない世界にいるような錯覚が起こった。

足取りもおぼつかない。
それは震動のためか、三半規管が異常をきたしているためか。

何もかも架空の世界で起こっているかに思えた。

( ゚∀゚)「(いや、違うんだ……)」

これは錯覚なんかじゃない。
架空の世界での出来事でもない。

自分が今おかれているのは、自分の親しかった上司が死んだ世界、
生きるか死ぬか、その二択しかない世界なのだ。

降り注ぐ大きな破片に当たれば死ぬし、ここを逃げ切ることができれば生きていくことができる。

死にたくない。
ジョルジュはそれだけを願った。

( ゚∀゚)「(だったらするべきことは)」

ただこの場を走り抜けることだけだった。

588 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 02:22:38.30 ID:9tPN6dkR0
――――……

( ゚∀゚)「はぁ……はぁ……震動も……収まったな……はぁ……」

( ´_ゝ`)「ああ……ここまでくれば、大丈夫だろうとは……思うが……」

二人は地べたに力なくしゃがみこんでいた。
肩は忙しなく上下に揺れ、吐き出す息は深く、だが多い。
秋だというのに、走り続けて極限まで温まった体に吹き付ける冷たい風は、
火照った身を程よく冷ました。

ジョルジュは立ち上がり、振り返った。

視線の先にあるものは、海のように大きな水溜りだった。
濁った水の中には倒れたビルの群れがあった。

湖から突き出る何本かのビルは、斜めになっていたり、
震動や水の勢いに負けず真っ直ぐのものもあったが、
どれも、二度と復旧することはできないほどボロボロになっていた。

590 : ◆girrWWEMk6 :2006/04/09(日) 02:35:12.12 ID:9tPN6dkR0
( ´_ゝ`)「……」

( ゚∀゚)「……」

この散々な光景に、二人はただ呆然と見ているしかなかった。
今まで自分たちがいたところが、あまりに短い時間で海底にあるという理不尽さに、
恐怖で身が打ち震えた。

これが今のニュー速の現状だ。
いつ島全体が崩れ落ちてもおかしくない。
そんな危険な状況だった。

( ´_ゝ`)「……行くか」

兄者がそう促した。
いつまでもここにいるわけにもいかないということを、理解しているのだろう。
それはジョルジュも同じだった。

( ゚∀゚)「ああ、そうだな……」

だが自分の過ごしてきた島が、三年間の思い出とともに沈み行くのが、
どことなくつらかった。

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