【8】 ( ^ω^)ブーンが絶体絶命都市から生きて脱出するようです。
112 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 00:26:08.06 ID:o8kDfl6a0
――ドクオ――
同日 AM 11:49
ミ,,゚Д゚彡「ほら、今日の昼ご飯。ちょっと早いけど」
フサギコ医院の医師、フサギコが直々にドクオとショボンの昼食を
トレイに載せて運んできた。
('A`) 「あ、どうも……」
頭を下げながら、ドクオはそのトレイを受け取った。
フサギコ医院での本日の昼食メニューは、ごく簡単なカレーとサラダだった。
ドレッシングは自家製なのか、別の容器に入れられていた。
カレーの刺激的な匂いが鼻腔をくすぐり、勝手によだれがにじんで来た。
つい先ほどまでなかった食欲が、うそのように湧いてきた。
ドクオたちは一時間と少しの時間をかけて、ようやくフサギコ医院にたどり着いた。
通れる道は覚えていたし、ショボンも苦しみつつも歩くピッチを上げていったので、
母を連れているよりも格段に早く着けた。
案の定、病院と体育館の道路は警戒心をむき出しにした若い男女が十数人ほどおり、
金属バットを持ったドクオたちをあからさまな敵意で迎えた。
近づき、事情を話す前に襲われそうな一触即発の雰囲気があった。
116 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 00:35:33.45 ID:o8kDfl6a0
だがその男女の中に、ドクオの母を運んでくれた二人の姿があり、
二人はドクオたちに気付くと、あちらから寄ってきてくれた。
「金属バットなんか持って、護身用かい?」
('A`) 「ええ、そんなもんです。ここに置いて行きましょうか?」
「いや、いいさ。俺たちから誤解解いとくから。一緒に来ていいよ」
そう話す二人のおかげで、ドクオたちもフサギコ医院へと入ることができた。
腕を痛めたショボンはそのまま医院の医師によって手当てをうけた。
骨はイっていないらしく、軽い打撲だけだったらしい。
治療というにはあまりにもお粗末で、包帯だけ巻かれておしまいだった。
ミ,,゚Д゚彡「他にもな、いろんなけが人がいるんで、我慢してほしい。男の子だろ?」
(´・ω・`)「そういうの、男女差別の温床なんですよ」
別段いやそうな顔もせずショボンがいうと、フサギコは小さく苦笑いした。
121 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 00:55:12.98 ID:o8kDfl6a0
そして、こうして包帯を巻いたショボンとともに、ボランティアに参加することなく、
手持ち無沙汰でフサギコ医院のそばで待機しているというわけだった。
('A`) 「……そういえば、カーチャンどうなったんです?」
スプーンいっぱいのカレーを頬張りながら、隣りで同じく
小気味良い音を立てながらサラダを食べるフサギコにたずねた。
ミ,,゚Д゚彡「ああ、やっぱり骨が折れててね。今、ベッドで横になってる」
('A`) 「なるほど」
ミ,,゚Д゚彡「しかしあれだけ放置したまま、強行軍を続けるとはねえ。
よっぽど君に心配かけたくなかったんだろうね」
初老の医師は、うんうんとうなずきながら麦茶を飲んだ。
それを聞いて、ドクオは沈むような気持ちになった。
自分もつらいのにそれをドクオに悟らせることなく、
むしろドクオのことを気にかけていた母のつらさを、ドクオは丸きり理解できなかった。
いつだってそうだ。
地震が起こる前でも、母はいつもドクオのことを気にかけていた。
ドクオはそれを疎ましく思い、時々だが、いなくなればいいと思っていた自分が、
さぞさもしい人間に思えた。
254 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 20:51:27.88 ID:o8kDfl6a0
フサギコはそんなドクオの顔を見て、微妙な空気を取り成すように付け足した。
ミ,,゚Д゚彡「……まあ、親っていうのは、そんなもんなのかもな。
わたしも子どもがいたら、そんな気持ちが理解できるのかもしれんかったが」
('A`) 「お子さん、いないんですか?」
ミ,,゚Д゚彡「うん。若いころは家庭よりも仕事って感じだったしね。
別にもてなかったわけじゃないよ。断じて違う。
医者ってのは、それだけでステータスになりうるもんだからね。
たまたまわたしがもてなかったわけじゃないさ。ここ、忘れないでね。
ただのサラリーマンになった弟が先に結婚するなんてな……」
まくし立てるようにそういった。
どう聞いてもドクオには言い訳にしか聞こえなかったが、
はあ、とあいまいな返事だけを返しておいた。
ミ,,゚Д゚彡「まあそんなこんなでな。結局わたしは……
いや、どどどどど童貞ちゃうわ! この歳で童貞なんかじゃないから!」
('A`) 「はあ」
ミ,,゚Д゚彡「……」
('A`) 「……」
結局、前にも増して微妙な空気がただよった。
ドクオは思った。
こんな医者に、人の命が任せられるのだろうか。
258 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 21:04:41.85 ID:o8kDfl6a0
疑心に満ちた横目を投げかけてくるドクオの視線に気付いたフサギコは、
大きく咳払いをひとつして、ショボンに話しかけた。
ミ,,゚Д゚彡「……腕のほうはまだ痛むかい?」
それは優しく、そして申し訳のなさを含んだ声だった。
(´・ω・`)「ええ、まあ痛みます」
無遠慮にひとつだけうなずくショボン。
ミ,,゚Д゚彡「すまんな。なんせ鎮痛剤も出し惜しみしてしまうほど、物資がないんだ。
正直なところ、打撲なんかじゃ鎮痛剤は出せんのだ」
さっきフサギコがした言い訳とはまた違った、
今度は言い聞かし、諭すような物言いだった。
(´・ω・`)「それじゃ、鎮痛剤が出せるような怪我っていうのは?」
ミ,,゚Д゚彡「……ドクオくんのお母さんみたいに、骨が折れてたりだな。
あとは……体を破損、というか、欠落、というか……」
いいにくそうにするフサギコのあやふやな答えに、
ショボンとドクオはすぐに察しがついた。
264 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 21:43:43.99 ID:o8kDfl6a0
(´・ω・`)「もげちゃったり、ですか」
ミ,,゚Д゚彡「……まあね。なんだかんだで、足を切断されてる患者もいる。
腕だってそうだ。そういう人に優先して医療物資を使ってるからね。
……しかし、やはり自分の慣れ親しんだ体の一部がなくなるというのは、
恐ろしいんだろうね。
さっき見た患者は、自分の片腕がないことをかなり嘆いていたよ」
(´・ω・`)「医者なんだから、それぐらい分かってたでしょう?」
ざんげのように悔やみながら小さくつぶやくフサギコに、
辛らつなほどあっけなくショボンはそういった。
ミ,,゚Д゚彡「……まあね……」
スプーンを皿の上においたまま、フサギコはうつむき、カレーの盛られた皿を見ていた。
いや、おそらくその視線は、その皿のもっと下、自分の想いの底を見つめているのかもしれない。
ドクオは何もいえなかった。
ショボンのようにはっきりとした物言いもできず、
かといって大人を慰めることができるほど器用な人間でもない。
金属のスプーンが陶器の皿をたたく音が聞こえなくなり、
それに気付いたフサギコが無理やり陽気な声をつくった。
ミ,,゚Д゚彡「あ、あはは、く、暗いぞー。子どもは元気がなきゃいかんな!」
267 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 22:00:50.97 ID:o8kDfl6a0
('A`) 「……腕とか再生したらいいのにな。ほら、よくSFマンガとかであるじゃないか。
いくら死んでも、記憶のデータ化による記憶の複製とかさ」
冗談めかしてドクオがそういう無邪気な話題を振ると、
フサギコもそれにのって、笑いながら答えた。
ミ,,゚Д゚彡「ははは、ナメック星人じゃあるまいし」
(´・ω・`)「でも、現代のクローン技術だと、そんなのもできるんじゃないですか」
だがショボンは至極普段どおりの、無表情な顔で、そうたずねた。
その声は、ある種の真剣さをはらんだものだった。
フサギコは一瞬迷ったような顔をしたが、一瞬の間をおき、いった。
ミ,,゚Д゚彡「いやいや、わたしが知る限り、そんなことはできんさ。
というより、人間の倫理がそうさせてはくれないだろうね。
腕が再生だなんて、それはある意味人体製造だよ。
記憶の挿入なんてのも、まずいな。
それをしていいのはたぶん神さまだけだと思うよ」
皿の上のカレーを食いつくし、コップに入った麦茶を口に含んだ。
別段暗い話でもないため、フサギコの口調はごく自然なものだった。
(´・ω・`)「人体製造、ですか」
ミ,,゚Д゚彡「ああ。考えてもみてよ」
そういって、フサギコは一口だけ麦茶を含んで、口を潤した。
これから長く話すための下準備なのだろう。
280 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 23:19:32.29 ID:o8kDfl6a0
ミ,,゚Д゚彡「もし人間が、人体製造なんかするようになるとする。
オリジナルの遺伝子から作られるのがクローンなんだけど、
自分の遺伝子から作られるんだから、オリジナルとはほとんど瓜二つの存在となる。
まあ生活環境によっては少しばかりの変化はあるけど。
でもさ、クローンなんて存在が世間に放たれたら、どうだろうか。
それはぱっと見、ほとんどオリジナルと大差ない。
そうすると、オリジナルと偽って生きて行くことすら可能になる。
人間なんていう自己主張の激しい生き物が、そんなことを許してしまうのだろうか。
自分がやってもないことを人に疑われるのだって、いやだろう?
だから人間は『勘違い』だとか、『誤解』だとかいうものを解きたがる。
同属嫌悪なんていう言葉さえある。
そんな人間が自分と大差ない存在なんて、許容できるのだろうか?
多分、できないな。いや、間違いなくできなくなる。
だがしかし、人間はクローン技術の発展をのぞむ。
何故か。
それは、そのクローンが、自分の代わりになりうるものだからだ。
自分の遺伝子から作られる存在なら、内臓諸器官との拒絶反応は起きない。
なんせ自分のものなんだからな。心臓を移植しようと、それはほぼ完璧なものだ。
後遺症なんて残らない。
これはすばらしいことだ。
だから人間は自分と同じ存在を作り上げようとする。自分の代わりとしてな。
だがそこに、人間としての扱いなんてものはない。
人間として扱うとすると、人権やなんかが絡んできて、一個体の人間として扱おうとされる。
そうすると自分の複製品なのに自分とは違う存在として生きていくことになる。
それを許さないのが人間なんだから、そうさせないのも人間だ。
だが人類なんて生き物の主義思想なんて千差万別だ。
そういう考えを許さないのも、人間なんだ」
285 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 23:31:59.98 ID:o8kDfl6a0
伏線かどうかの裁量は、読む人にお任せしますお( ^ω^)
むしろ「ここは伏線だ!」と誰かが言って、それを鵜呑みにした住人の皆さんが、
最後にどんでん返しを喰らって、まさに鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてもらえれば、
俺としてもうれしいですお( ^ω^)
でも過度の予想は勘弁してほしいですお( ^ω^)
負けず嫌いなので、時々話の流れを変えるかもしれないので。
……まぁぶっちゃけた話、もうなるべく長引かせないようにしてるんで、
そこまで極端に話変えるかは微妙ですが( ^ω^)
まあ、なんだかんだ言って、読んでもらえるだけで嬉しいんですが。
288 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 23:37:53.39 ID:o8kDfl6a0
('A`) 「……」
(´・ω・`)「……」
ミ,,゚Д゚彡「つまりね、これまでの人間の倫理観からすると、
クローンだろうとなんだろうと、一個の人間として扱おうとするという意見が
たぶん世界の大半を占めるだろうね。
だからクローン技術の発展なんてのはかなり抑制されているんだと思う。
でも世界の水面下では、もしかしたらそういう研究しちゃったりもするかもしれないけど。
わたし個人としてもそんなの反対だし、
何よりそんなことをすると、人間の生死に対する概念すらもおかしくなっちゃうと思う。
だって代わりがいくらでも作れるんだよ?
記憶の挿入技術とか、それこそ人間をファックスでコピーするようなもんだ。
昔はわたしもそういうSFチックな幻想を抱いたりしたけど、
今、こうして大地震が起きて、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる中で、
人間の生きる意味とか、死ぬ意味とか、
そういうのをわたしは今とても身近に感じている。
……医者として、こういうこと言っちゃうのは最低かもしれないが、
わたしは、死を身近に感じることで、与えられた生の意味を考えられるようになるんじゃないかって、
そう思うんだ。おかしいかもしれないけどね」
フサギコはそういってコップに残った麦茶を一気に飲み干した。
その表情は、どこか憂いを帯びたものだった。
289 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 23:49:06.19 ID:o8kDfl6a0
ミ,,゚Д゚彡「ここにある死は、わたしたちにないものだ。
わたしたちは生を持っているため、相対するこの死という財産を持つことはできない。
わたしたちの限りある人生の中で、ただ一度きり、誰にでも訪れる事象。
死っていうのは、恐ろしいもので、でも尊いものなんだ。
それがこんなに身近に、それこそはいて捨てるほど存在するこの島。
わたしは、ここにいれることが、少し幸せに思えるよ」
口を挟むことなくそのフサギコの独白じみた言葉の連なりを聞いていたドクオが、
最後の一言に憤慨したように顔を耳まで紅潮させた。
('A`) 「し、幸せだなんて! 人が死んでるんですよ? どこが幸せだ!」
(´・ω・`)「……」
訳がわからない。
ちょっとだけいい医者かと思えば、訳がわからない話をぺらぺらとしゃべった挙句、
この、人間がたくさん死んでいる状況の中にいれて、幸せだとかいうフサギコの神経を疑う。
ふざけるな、という感情しか浮かんでこない。
それが口をついて出るのに時間はかからなかった。
('A`) 「あんたは、人の痛みがわからんのだ! だから平気でそんなことが言える!
ふざけるな! あんた、それでも医者か!」
ミ,,゚Д゚彡「……わたしもね、この地震で母が死んだ」
290 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/30(木) 23:58:17.54 ID:o8kDfl6a0
フサギコの突然のつぶやき。
('A`) 「え……」
それでドクオの一方的な叫びがとまるのも、当然といえば当然だった。
ミ,,゚Д゚彡「わたしの父はもう亡く、年老いた母はわたしが世話をしていた。
わたしの家はこの医院の裏手にあった小さな和風家屋でね。
古くて、伝統的といえば伝統的なものだったが、結構老朽化していてね。
でも母はそれがかなりお気に入りだった。
リフォームもできたが、母はそうさせてくれなかった。
そのせいかな。今はもうものの見事に潰れてしまったよ」
('A`) 「……そ、それなのに、なんで! なんで幸せだとかいうんですか!
母さんでしょ? 血が繋がってるんでしょ!?」
ミ,,゚Д゚彡「その母の死を認め、わたしは自分の生の意味、ありがたさがわかったんだよ」
手を組み、両の指を絡ませながら、フサギコはいった。
予期せぬその返答に、ドクオは何がなんだかわからなくなった。
('A`) 「さ、さっきも言いましたよね、それ。どういうことなんですか?」
291 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/31(金) 00:10:18.58 ID:LZ08/oUY0
ミ,,゚Д゚彡「どういう意味も何も、わたしの母は死んだ。
そのおかげで、ただただわたしは自分の運命を呪い、そして、喜んだ。
母は死んだが、わたしは生きている。
生きているわたしは、死んだ母の分まで生きることをしなければいけないんだ。
ここには、わたしと同じく家族を失くした人間がたくさんいる。
だからわたしは、生きたいと願う人間を手助け、
そして死んだ家族、大切な人の分まで生きてもらいたいんだ。
そうすることで、わたしはわたしの生を全うすることができる気がするのでね。
これが、わたしの母が死んだことによって得た、わたしなりの生の意味の回答だよ」
長い話を終えたフサギコの顔つき、声の色は、
先ほどのおどけたことばかり言っていた男のそれとは違っていた。
そこにあったのは、自分より長く生き、自分より多くの人間を救おうとしている男の姿だった。
('A`) 「……正直、俺にはあなたが何を言っているのか、あまりわからなかった……」
ただ言葉の上っ面だけ聞いてすべてを理解した気になっていた自分が恥ずかしかった。
('A`) 「でも、あなたの思うところは、たぶん、わかった気がする……」
この人は、人の死を軽く見ているわけではない。
誰よりも重く見ており、そしてその意味を理解している。
('A`) 「すみませんでした。生意気言って……」
ドクオは自分の過ちに気付き、立ち上がって深々と頭を下げた。
そのさっきと変わって見せる真摯な態度に、フサギコは軽くうろたえた。
295 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/31(金) 00:20:14.89 ID:LZ08/oUY0
ミ,,゚Д゚彡「い、いや、いいんだ。わかってくれれば……いや、わかってくれなくてもいい。
それが子どもってものだからな。子どもってのは、いくらでも間違えてもいいもんなんだ。
間違えて、間違えて、それが正解になるっていうのが、子どもの正しいあり方なんだよな。
ほら、顔あげて。さっさとカレー食っちゃいなさい。
あと、お母さんは今寝てるから。たぶん緊張の糸が一気に切れちゃったんだろうね。
だから、また夜に来なさい。医院のベッドで寝てるからね」
そういうと、立ち上がり、昼食の皿の載ったトレイを持ってまた職場に戻っていった。
その背筋は真っ直ぐで、自分の考えに微塵の迷いもないふうだった。
(´・ω・`)「……」
フサギコが去って、二人の中にはただ沈黙しかなかった。
ショボンはあの初老の医者が去った後、黙々とカレーを食べ続けた。
ドクオの胃袋も貪欲にその辛味のある食料をむさぼった。
('A`) 「……人の死ぬことに、意味がある……」
(´・ω・`)「……」
出会いがあれば、別れもある。
喜びがあれば、哀しみもある。
生があれば、死もある。
世界のあらゆる事象は表裏一体だ。
だがその事象の一つ一つに理由があり、意味もある。
それは良いことなのか、悪いことなのか。
ドクオにはわからなかったが、ただこれだけは理解できた。
別れが生むのは、悲しみだけではなく、喜び、感動だってあることを。
421 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/31(金) 23:45:27.49 ID:LZ08/oUY0
早い昼食の終末はいつもよりも遅くなり、体育館前の簡易厨房に食器を返すころには
もう昼の1時も半ばまで過ぎていた。
あらためてここにいる被災者の数を数えてみると、
体育館前のボランティアの数だけで50人は超えており、
ちょっとだけ覗き見した体育館の中にはかなりの人間がいた。
フサギコ医院にいる人間もあわせれば、500人はいるんじゃないだろうか。
平日の昼に起きた地震だけあって、居住区の人間は少なかった。
それでも、まだこの島にはこんなにもたくさんの人がいるのだ。
そうおもうと、ほんの少しだが元気が出る。
島の全人口、2万人なんて数え切れるものでもないし、
みなが一斉に集まるなんてこともないので、どのくらい多いのか感覚的な把握はしづらい。
でもこの500人は、今まで一度にみた人間の数で一番多そうに見えたし、
まだ500人も生きていると考えたら、
まさかこれだけの人間が一人残らず死滅するなんてこと、考えがたかった。
('A`) 「(……そうだよな。俺たちはまだ生きてるんだ。生きていれば、こそだよな)」
427 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 00:06:56.89 ID:7/f82 zH0
ドクオが一人で奮起していると、フサギコ医院前の道路のほうが突如ざわついた。
('A`) 「なんかあったのか?」
(´・ω・`)「さあ」
('A`) 「とりあえず行ってみるか」
母も眠っており、何もすることがないドクオは、面白そうなことがあれば食いつきたくなった。
もし何もなくても、通り魔を警戒しているボランティアの人間に協力でもすればいい。
自分の誤解を解いてくれたあの若い男女にでも話してみるか。ドクオはそう考えた。
小走りでショボンと二人、フサギコ医院前へと向かった。
遠めに見るところ、誰かが何人かの屈強な男に押さえつけられていた。
それを離れたところから見つめていた例の男女を見つけた。
駆け寄り、声をかけた。
('A`) 「……どうかしたんですか?」
「……ああ、ドクオくんか。ほら、通り魔っていう話もあってさ、
みんな気が立ってるんだ。ぴりぴりしてさ。
で、一応ここに入ろうとしてくる人の身元の確認とかしてるんだけど、
それを聞かなくて、無理やり入ってこようとしたんだよ。
やっぱり不穏分子ってやつ、入れるわけにはいかないからさ」
('A`) 「なるほどね」
433 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 00:20:27.14 ID:7/f82 zH0
遠くからでは、その不穏分子も大柄な男たちに押さえつけられ、よくその姿が見えない。
そうしてドクオは近くまで寄ろうと早歩きで近寄った。
男の背は平均くらい、だが肉付きは良く、どちらかというと太っているという印象があった。
そいつは押さえつけられながらも、わめき、必死に振り払おうとしていた。
だがその抵抗もむなしく、地べたに張り付くだけだった。
「どけお! ここにカーチャンがいるかもしれないだお! いちいち名前とか、うるさいお!」
その声、語尾には聞き覚えがあった。
いや、聞き覚えなんていうものじゃなく、今までその再会をずっと待ち望んでいた――
('A`) 「ブーン!」
ドクオの放った一言で、うるさかった男の動きがやんだ。
( ^ω^)「……懐かしい顔だお」
それは紛れもなく、懐かしき友人の姿だった。
436 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 00:32:03.30 ID:7/f82 zH0
('A`) 「よかった……そりゃツンに生きてたって話は聞いてたけど、
こんなにあっけなく会えるなんてな……」
声は喉の奥で震えを起こし、眼窩には小さなしずくがたまった。
('A`) 「おい、どいてくれ! こいつは俺の友達なんだ!」
ブーンのそばに駆け寄り、押さえつけている男たちを急いで退かせた。
ようやく自由になったブーンは立ち上がり、砂埃を手で払った。
( ^ω^)「わけわかんねえお。なんでこんな扱われ方されなきゃいけねえお」
まさにブーンは怒り心頭といった様子で、今まで自分を抑えていた男たちをにらみつけた。
('A`) 「まあだけどさ、良かったよ。ホントに良かったよ。
生きて会えただけで俺は嬉しいよ。どこも怪我してないか? 平気か?」
( ^ω^)「別にねえお。でもこれは一体どういうことなんだお?
町はめちゃくちゃだし、島の端っこのほうなんか沈んでるお」
('A`) 「気でも失ってたのか? なんかでかい地震があってな。
気がついたらこのざまだ。人が大勢死んでる」
( ^ω^)「俺のカーチャンは?」
眉間にしわを寄せて、ブーンはドクオにたずねた。
久しぶりにあった友人に、ドクオは何か微妙な違和感を感じた。
だがその正体はわからなかった。
440 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 00:44:38.08 ID:7/f82 zH0
('A`) 「……わからん。俺たちも今着いたとこなんだ。ただ、お前の家は……」
( ^ω^)「俺たち? 誰がいるお?」
自分の見たあの光景を話しあぐねるドクオの言葉をさえぎり、
ブーンはドクオの話の中にでた単語に疑問を持った。
('A`) 「ああ、俺のカーチャンとな、ショボンも一緒なんだ」
ドクオが振り向き、若い男女と一緒にいるショボンを指差した。
するとブーンの様子は一気に変貌し、親しみどころか憎悪の視線を向けていた。
( ^ω^)「……ショボン……!」
もともと違和感があった雰囲気はさらに刺々しいものとなり、
そのあまりの変化にドクオは戸惑った。
('A`) 「え、おい」
( ^ω^)「ショボン! こんなところにいたのかお前ーっ!」
叫んだブーンは、一目散にショボンめがけて走り出した。
そのままこぶしを握り、腕を振り上げ、ショボンの顔を、殴り飛ばした。
442 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 00:58:16.50 ID:7/f82 zH0
(´・ω・`)「ぐぅ!」
( ^ω^)「お前は! なんでのんきにこんなところにいやがるお!」
倒れこんだショボンに覆いかぶさり、馬乗りになって殴り続けた。
殴られたショボン口から血を流し、顔は苦しげなものになった。
ドクオはそのあまりに突然の事態に驚いたが、すぐにブーンをとめにかかった。
('A`) 「おい、何してんだ! やめろ! お前勘違いしてんじゃねえのか!?
こいつはショボンだぞ!」
( ^ω^)「ショボンだから、やるんだろうがお!」
休む間もなくさらに殴り続ける。
見かねたドクオは馬乗りになったブーンを突き飛ばし、羽交い絞めにした。
('A`) 「おい、どうしたってんだよ! 落ち着けよ!」
( ^ω^)「うるせえお! 放せお!」
落ち着かせようとしても、怖いくらいの気迫、そしてどこから湧いてくるのか、
すごい力のせいでドクオは殴り飛ばされた。
('A`) 「ブーン!」
( ^ω^)「死ねお! ショボン!」
倒れたままのショボンの頭めがけて、思い切り足をたたきつけようとするブーン。
449 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 01:24:24.42 ID:7/f82 zH0
だがそれは未然に防がれた。
ショボンの隣にいた若い男が取り押さえたのだった。
('A`) 「何してんだよブーン! まさか、お前が通り魔だったのか!?」
( ^ω^)「放せおっ! 通り魔って、なんだお!
ショボン! ショボォォォーン!」
自分よりも背の高く大柄な男に羽交い絞めにされ、ブーンは宙で足をばたばたとさせた。
それでも必死に抜け出そうとするが、地に足がついていないためか、力が入らないのだろう。
450 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/32(土) 01:25:01.37 ID:7/f82 zH0
('A`) 「おい、どうしたってんだよ!」
( ^ω^)「お前は、こんな奴とのんきやってやがってお!」
やかましくわめき、じたばたさせていた足を落ち着け、
的確に自分を絞める男のすねを狙ってかかとをぶち当てた。
男は弁慶の泣き所を蹴られ、思わずうずくまり、力が抜けた。
そこからブーンは脱し、ショボンとドクオの二人をにらみつけた。
( ^ω^)「……ショボン、お前は必ず、俺が……」
この騒ぎの一部始終を見ていた周りの人間によって、
その先はいえなかった。
飛び掛ってくる男たちをすばやく避け、もう一度憎悪をむき出しにした視線をショボンに送り、
ブーンはその持ち前の足の速さを生かして逃げた。
('A`) 「ブーン! おいブーン! 待てよ!」
ドクオは消え行くブーンの背中に叫んだ。
だが返事は返ってくることなく、言葉は風とともに空に消えていった。