【7】 ( ^ω^)ブーンが絶体絶命都市から生きて脱出するようです。

143 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:57:25.04 ID:TIdpdzbH0
――ブーン――
同日 AM 10:38

( ^ω^)「はぁ……はぁ……」

昨日の疲れが取れきれないうちに走り始めたせいか、やはり体力の消耗は大きかった。
すぐに息は切れ、視界はぼやけ、背中は少し痛んだ。

本来ならこれだけ走ればすぐにでもたどり着けるはずなのだが、
地震のせいで地形が変わり、遠回りするしかなくなっていた。
これほど地形が変わるような地震で、果たして家は大丈夫なのだろうか……。

( ^ω^)「……カーチャン……」

この惨劇の舞台に置かれながら、それからまだ見ぬ友人やただ一人の母を想った。
一刻も早くみんなに会いたかった。
会って、再会を喜びあい、共に生きていきたかった。

そのために、ブーンは走った。
体が嫌がり、速度を落とさせようとも、ブーンは無視して走り続けた。

144 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:59:05.25 ID:TIdpdzbH0
しばらく走った。
この道、近い。
もうすぐ、すぐに僕の家に着く。

( ^ω^)「……ここを……」

右に曲がり、

( ^ω^)「……真っ直ぐいって」

トンネルをくぐり、

( ^ω^)「……犬小屋のある家……」

今は無いそれを、

( ^ω^)「……左に曲がれば……」

そこには僕の家がある
はずだった。

( ^ω^)「……え……」

145 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 09:59:42.73 ID:TIdpdzbH0
ブーンの家の敷地内にあったものは、
バラバラになった木材と、それを押しつぶすように上から覆いかぶさっている灰色の屋根だった。

( ^ω^)「……」

家は本来の高さより二分の一以下にまで圧縮されていた。

( ^ω^)「……カ」

ガラスの破片はまかれたように散らばり、折れた柱がささくれ立つ刺々しさをさらしていた。

( ^ω^)「……カーチャ……」

コンクリートの塀も家が潰れた衝撃のせいか、所々崩れ落ちていた。

結局、それがブーンの家だった面影は、被さる灰色の屋根でしかなかった。

( ^ω^)「カーチャン……」

少しずつ家が近づいてきた。
それが自分で近寄っていることに、ブーン自身気がつかなかった。

146 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:14.33 ID:TIdpdzbH0
もしかしたら、この木材の群れにちょっとしたすきまがあって、
カーチャンはそこで気絶しているだけかもしれない。
明らかに薄すぎる望みが脳裏に浮ぶ。

家に手を触れるが、だが灰色の屋根がブーン一人の力で動くはずもない。
重かった。
こんな重いものが降ってくれば、すきまなんて話はない。

受け入れられない現実がそこにあった。
認めたくないのに、足は勝手に前に出る。
知らなければ良かった、などという言葉は、こんな時に出てくるものかもしれない。

( ^ω^)「は……あは……ははは……」

自然と、笑いがこみ上げてきた。
悪い冗談。
エイプリルフールはまだまだ先だ。

147 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:34.08 ID:TIdpdzbH0
握りこぶしを作り、屋根を叩いた。
悲しみと怒りが、衝動となってブーンの体を動かした。
屋根は硬く、ブーンのこぶしは叩きつけられるたびに悲鳴を上げた。
それでも何度も叩いた。殴った。
手の感覚は研ぎ澄まされ、痛みをよんだが、だがそれも次第に消えていく。

( ^ω^)「はは……は……あ……あ……」

視界はぼやけ、喉には何か違和感がある。
眼窩からしずくが落ち、頬を濡らした。
自分が涙を流しているということにも気がつかなかった。

得体の知れない何らかの感情がブーンの中にあった。
心だけでなく、体全体を支配する、大きな感情だった。
ブーンの小さな体ではそれをとどめることは出来ず――

( ^ω^)「あああああああああああああああ!」

ブーンは、空に吠えた。

148 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 10:00:53.24 ID:TIdpdzbH0

( ^ω^)「……」

膝を抱え、うずくまっていた。
どのくらいそうしていただろうか。

涙はとうに枯渇し、頬に明確につけられたその跡は、風に撫でられ
ひりひり苦痛を与えられるはずだった。
だがブーンはそれすら感じなかった。

あの時湧き上がった感情は、ブーンのすべてだった。
それを放ったブーンには何も残されていない。
ただ抜け殻がそこにあるだけだった。

だから、その気配に気がつかなかった。

砂利の踏みつけられる音、そして何かが風を切る音。
それらが耳に入ったとき、ブーンの意識は途切れ、闇に落ちた。

177 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 16:04:54.53 ID:TIdpdzbH0
――ジョルジュ――
同日 AM 11:01

( ゚∀゚)「っ……」

ギコが先頭を歩き、その二メートルほど後ろを兄者とジョルジュ、二人が肩を並べて歩く格好だった。

( ´_ゝ`)「大丈夫か?」

いつも通りあまり表情の変化がとぼしい兄者だったが、
心配そうな声色で話しかけていることは、ジョルジュにもわかった。

( ゚∀゚)「……まあ、大丈夫」

手を軽く振り、心配ないというジェスチャーをしながらいった。

実際には、歩けないほどではなかったが、やはり体中の節々が痛んだ。
本来なら少しばかりの休憩をもらいたかったが、こんな状況で休むもくそもないことは、
ジョルジュが一番理解していた。

( ゚∀゚)「さっさとやることやって脱出しようぜ」

少し足を速め、ギコの隣りに追いつく形で歩いた。

( ´_ゝ`)「……」

兄者はそんなジョルジュの気丈さを信頼してはいたが、
それがどこか危なげなことも心配していた。

179 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 16:38:46.59 ID:TIdpdzbH0
(,,゚Д゚)「あれか。崩れてなくて安心したぞゴルァ」

ギコが声をあげ、前方のビルを仰ぎ見ていた。
ジョルジュもそれを見て、一瞬安堵した。

VIP商事のビルはほぼ原型をとどめており、
辺りがほとんど倒壊寸前の建物に囲まれた状況だと、いっそう頑丈に見えた。
外観ではガラス窓が割れているくらいで、倒壊の恐れはまったくなさそうだ。

20階建てのビルの正面玄関へと赴いた。
真下から見るビルは山のように高く、いや頂上が見えない分、山よりもたちが悪かった。

(,,゚Д゚)「……こんなかから図面とかいうのを探すのか……」

ギコが呆然としていった。
顔は心なしかげんなりしているようにも見える。

( ゚∀゚)「まあ、貴重な図面なら資料室にあるかもしれんな。
     もしくは社長室とか、その辺の重役室だな。
     そんなところ、まったく無縁な生活だったんで位置くらいしかわからんが……」

189 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 17:15:02.72 ID:TIdpdzbH0
( ´_ゝ`)「で、ジョルジュ、お前の用事ってのは、何なんだ?」

( ゚∀゚)「ああ、俺の机にな、色々はいってるからな。
     やっぱ持って行きたいものとかもあるんだよ。
     もしこのままビルが無事で、ここに戻ってくるようなことになってみろ。
     俺のデスクの中には様々なエロ本が、会社のやつらに露見したら自殺もんだぞ」

(,,゚Д゚)「そりゃおめーが悪いぞ」

正面玄関の自動ドアは開いたままになっていた。
シャッターも降ろされておらず、三人はすんなり入ることができた。

( ゚∀゚)「シャッターが降ろされてないのは、ここも電力が供給されてないってことだな」

( ´_ゝ`)「だろうな」

(,,゚Д゚)「で、開いてたのは、中の人間が脱出するときに開けっ放してたってことか」

( ゚∀゚)「ああ、生きてる人間もいたってことだな」

そういうと、ジョルジュはほっと一息ついた。
これだけ大きな会社だ、見知らぬ人間もいたが、
やはりそういう犠牲者を発見するのはあまり好ましいことではなかった。

191 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 17:34:50.05 ID:TIdpdzbH0
一階のロビーは全面ガラス張りになっていて、太陽の光で明るく、見通しは良かった。
端には高級感のある黒いソファーがいくつかあり、
地震の影響か微妙に位置がずれているだけで他に変わったことはなかった。
受付付近は何かの書類が地面に散らばっていたが、ギコの望む図面ではなかった。
全体的に雑然とはしていたけれど、死体らしきものや変わったものは見当たらなかった。

( ゚∀゚)「……とりあえず、俺の仕事場に行くか。
     どうせ資料室も重役室も、俺の仕事場よりずっと上だ。
     エレベーターも止まってるし、階段で行くんだから、俺の用が先でもいいだろ」

(,,゚Д゚)「まあ、それくらいならな」

三人はエレベーターの隣りにある階段から上を目指した。
ジョルジュの職場は七階にある。
このビルは一階一階の高さがなかなかあり、それを階段でのぼるというのは、
かなり労力を必要とするものだった。

実際、ジョルジュと兄者は四階途中の踊り場で息をあげていた。

(,,゚Д゚)「おまえらなぁ、いい歳こいて体力なさすぎだぞゴルァ」

まったく疲れた様子を見せず先を歩くギコが振り向き、
二人を呆れ顔で叱咤した。

193 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 18:03:31.46 ID:TIdpdzbH0
( ゚∀゚)「い、いい歳だから元気もねえんだよ……」

( ´_ゝ`)「て、ていうか、タバコ吸ってたんだし、最低でも俺と同い年ではないか……」

(,,゚Д゚)「あ? 俺はまだ17だっつの。一緒にするなよゴルァ」

( ゚∀゚)「……老けてんな」

(,,゚Д゚)「う、うっせ! お前な、身体的特徴での悪口は最低なんだぞゴルァ!」

自分が老け顔だということを少しは自覚していたのか、
ギコは顔を紅潮させてわめいた。

( ゚∀゚)「……体力ないって馬鹿にするのはいいのかよ……」

(,,゚Д゚)「ふんっ!」

鼻を鳴らすと、ギコは一人でさっさと行ってしまった。
それを体力のない、老いに足を踏み入れ始めた二人は、
息を切らしながら見送ることしかできなかった。

( ´_ゝ`)「……初めて自分が情けないと思った」

( ゚∀゚)「……ああ」

二人はそう奮起しながら、でも結局スピードを上げることができず、
よちよちと一歩ずつ階段を上がっていった。

197 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 18:23:00.86 ID:TIdpdzbH0

(,,゚Д゚)「ったく、おせえなぁ」

目標の七階の防火シャッター前に、壁に寄りかかって二人を待つギコの姿があった。

( ゚∀゚)「り、律儀に、待ってた、のか……はぁはぁ……」

息を切らしながら、少しは可愛いところがあるじゃないか、と
ジョルジュは心の中で呟いた。
だがギコは顔色一つ変えず、当然だと言わんばかりにいった。

(,,゚Д゚)「どこの部屋かわかんねえだろ」

( ゚∀゚)「そういうことなのね……」

( ´_ゝ`)「……まぁ、実際の話、お前の職場はどこなんだ?」

( ゚∀゚)「あ、ああ。わかった、ついてこい」

そういうと、ジョルジュはギコの隣りを通り、右に曲がった。
フロアはなかなか広いわりに、部屋自体はそこまで大きくないようで、
入りくんだ通路を長々と歩いているような感覚があった。

205 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 18:48:30.23 ID:TIdpdzbH0
あまり脳内で地図を作ることが上手くない、方向音痴な兄者は
次第にどこをどう曲がっただとかがわからなくなってきた。

( ゚∀゚)「まあ、俺も最初はよく迷ったな。
     そのせいでしょっちゅう課長に叱られてたもんだ。
     あのジジイも無事だといいんだけどな」

「ジジイで悪かったな、ジョルジュ」

ジョルジュの何気ない言葉に、どこからか反応する声があった。
しわがれたその声は、どう考えても二人のものではなかった。

( ゚∀゚)「げ、幻聴か!? もしくは霊か!? 成仏しろよジジイ!」

「馬鹿野郎! 生きとるわ! こっちだ!」

年老いた声がするほうを向くと、スーツを着た老人がドアの影に隠れるようにたっていた。

(’e’)「こんな状況になっても上司の陰口とは……まったくお前は成長せんやつだな!」

( ゚∀゚)「かかか、課長! とんでもない!
     男ジョルジュ、ちんこ機能不全ジジイなんて言ってません! 神に誓って!」

(’e’)「そりゃあ言ってないわの。言い訳でグレードアップした暴言吐く奴なんて初めて見たわい」

課長と呼ばれる老人はいった。
見た目は老人というより、老け込んだだけの人間かもしれない。
会社にまだ勤めているところを見ると、定年間近なのはたしかだ。

207 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 18:57:21.28 ID:TIdpdzbH0
(’e’)「それよりお前ら、知らん顔もあるが、ちょっとこっちにこい」

老人はそういいながら、手首を振り、自分のいる部屋にくるよう合図した。
三人は訝しがりながらも、ジョルジュを筆頭にその部屋の中へと入った。

部屋は別の課の職場だった。
ジョルジュの所属する課の職場とほとんど同じく、
各社員の仕事机が規則的に並んでいた。
その数はおよそ40近くあった。

(’e’)「……お前ら、ここは危ない。はやく逃げろ」

部屋の扉を閉めた老人は、開口一番そういった。

( ゚∀゚)「ハァ? 何言ってんですか課長。ここだけじゃなくて島全体やばいんすよ。
     それくらい、ここの窓からでも分かるでしょうが」

軽口を叩くようにジョルジュはいったが、老人は真剣な面持ちで首を振った。
眉間にしわを寄せてはいたが、それはジョルジュの軽口にではなかった。

(’e’)「……わしは知ってしまった。この島の計画、この地震の理由。
   悪いが今はその説明をする時間が惜しい。
   これを持って、その辺に隠れておれ」

老人はふところからある書類袋を取り出した。
厚みがあり、その大きさは、どこか重大そうな雰囲気を放っていた。

209 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 19:15:15.18 ID:TIdpdzbH0
(,,゚Д゚)「……もしかして、図面か?」

ギコが静かに口を開いた。
時々、扉の向こうを振り返り、気配を探っている。
このビルに来る前に聞いた、危険察知とやらが発動しているのだろうか。

(’e’)「お、お前、なぜ知っとる!? 奴らの手先か!?」

老人が明らかにうろたえ、ギコをにらみつけていた。

(,,゚Д゚)「いや、このビルに、今回の地震に関する重要な書類があると教えられ、
    それを借り……盗んでくるように言われた。俺も事実は分からん。
    だがその依頼主は俺の恩師だ。決して悪い奴じゃない」

(’e’)「……」

訝るような目つきでギコの顔を見る老人だったが、
ふと視線を落とし、呟くようにいった。

(’e’)「……お前さん、嘘はいってないようだな。
    目を見れば分かる。だから、これをお前らに渡す。
    奴らも、必死になって探すかもしれん。
    お前らはこれをもって、島を出ろ。
    そしてこの地震の真実を、世間に公表しろ」

まくしたてるようにいうが、当のジョルジュたちには何が何だかわからなかった。

( ゚∀゚)「おい、ジジイ、訳の分からんこと言わんでくださいよ。
     それに奴らだの地震の真実だの、さっぱり分からんよ」

211 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 19:27:34.98 ID:TIdpdzbH0
(’e’)「すまんが、説明している時間はない。
    奴らがここにくる。その図面を見れば、お前なら分かるはずだ。
    ……はやく隠れろ。あいつらが去ったら、すぐビルを出ろ。
    いいな?」

老人はそういうと、近くに散乱していた書類をかき集め、
元々自分が持っていた書類袋の中身とそれを入れ替えた。
そして書類をジョルジュに手渡し、一つだけ頷いた。

( ゚∀゚)「だ、だから何もわからん!
     そりゃあただの地震じゃないことはわかるが、真実だなんだの、
     俺からすれば関係ない! 俺は一般市民だ!」

ジョルジュはそれを受け取らず、小声で、しかしわめくようにいった。
その様子を見ていたギコが、突然びくりと体を反らし、
口の前に人差し指をおきながら呟いた。

(,,゚Д゚)「……隠れろ。来る」

それだけいうと、ギコは老人の差し出す書類の束をひったくるように受け取り、
小走りで奥の机の中へと隠れた。

口を挟まず見守っていた兄者も、ギコのその様子に気付き、
自分も奥の机のほうへと駆けて行った。

213 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 19:49:08.15 ID:TIdpdzbH0
( ゚∀゚)「……な、なんだよ。意味がわからねえって」

(’e’)「今は分からなくていい。とにかく隠れろ!」

老人は、書類袋を持っていたライターであぶった。
書類袋の下のほうから火はつき、次第にそれをこげカスへと変えていった。

(’e’)「はやく!」

これまで昼行灯を決め込んでいた定年間近の頼りない課長の、
未だかつて見たことのない只ならぬ剣幕に、ジョルジュはただ引き下がるしかなかった。
おずおずと老人を見ながら、二人のほうへと走りよった。

次の瞬間、扉が大きな音を立てて開いた。

「……誰か他の声が聞こえた気がしたが」

聞いたことがありそうで、でも思い出せない声が聞こえてきた。
老年者特有の深みのある声質で、老人――課長と同じくらいの年齢かもしれない。

(’e’)「なんじゃ、お前もとうとう空耳が聞こえるほど老いたか」

「……何を燃やしている?」

(’e’)「分かりきっとる。あれを燃やしとるのだ。
    あの書類さえなくなれば、お前らの言う『計画』とやらも水泡に帰すはずだ」

214 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 19:55:16.22 ID:TIdpdzbH0

その言葉があって一瞬の後、扉の近くにいる男から含み笑いが聞こえてきた。

「ふふ……ふふふ……はは……」

(’e’)「……何がおかしい!」

「いやいや、日頃から使えない奴だとは思っていたが、
 お前がそこまでバカでグズだとは思わなかった。
 あの話を聞いておきながら……」

(’e’)「どういうことだ!」

「その書類、無くなってしまったほうがこちらとしては好都合なんだよ。
 ジョーンズ、お前はよくやってくれたよ」

(’e’)「な……はっ……!」

半分近く燃えている書類の火を、床にたたきつけ、
必死に消そうとしている音が聞こえてきた。

「礼をささげる。むげにするな。受け取ってくれ」

男の声の後、部屋中に破裂音のようなものが聞こえてきた。

パン、パン――

合計二発の、破裂音のような渇いた銃声があった。

216 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 19:59:48.61 ID:TIdpdzbH0
「……お前とは、今生の友人になれると思っていたのだがな……」

そういって、男は去った。
部屋には書類の燃え散る音とその臭いだけが残った。

( ゚∀゚)「ジジイ!」

男の気配がなくなると同時に、ジョルジュはすぐさま老人のもとへと駆け寄った。
老人は腹部と胸に一発ずつ銃弾を身に受けていた。

(’e’)「……じょ、ジョルジュ……」

( ゚∀゚)「おい、しっかりしろよ!」

ジョルジュは老人の体を抱き上げ揺さぶった。

(’e’)「……ふ、はは……どうだ、わしの、演技は……。
    いくら無能なわしとて、その書類が奴らにとって、
    あってはならんものだということくらい、
    わかって、おったわ……」

( ゚∀゚)「いいから、しゃべんな! すぐニュー速総合病院連れてってやるから!
     おい、二人とも、手貸してくれ!」

ジョルジュはそう机から這い出た二人に叫んだが、
二人は悲痛な面持ちでただ突っ立っているだけだった。

219 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 20:08:30.30 ID:TIdpdzbH0
( ゚∀゚)「おい、手伝えよ! 死んじまうだろうが!」

( ´_ゝ`)「……これは、もう……」

(,,゚Д゚)「無理だな。諦めろ」

( ゚∀゚)「……おい……」

(’e’)「そ、の二人の言うことは、ただしい……。
    ジョルジュ……お前は、真実を見ろ……。
    自分の、置かれている、状況を、真実を、その目で、
    しかと見るんだ……」

息も絶え絶えに、時々血を喉の奥から吐き出しながら、
老人は語った。

( ゚∀゚)「……な、なんだよそりゃ……
     俺はただの市民で、真実だとか、状況だとか! 関係ねえだろ!
     俺は生きて、今までと同じように、平和に生きていくんだよ!
     本島の家族や彼女と一緒に!」

目の前にある死を認め、ジョルジュは心乱された。

なぜ銃声が?
なぜ課長が死ななくてはならない?
奴ら?
真実?
なんで俺はこんなところにいるんだ?

220 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 20:09:37.69 ID:TIdpdzbH0
訳が分からない。
今まで自分の身ひとつ守ることだけでも必死だったのに、
この地震の謎だとか、真実だとか、課長が死ぬだとか、
もう何が何だか分からなかった。

(’e’)「そ、それでも……せめて……その書類を……
    心あるものに……渡し、て……」

( ゚∀゚)「あ……ああ、あ、いや、ダメだ!
     それはジジイ、お前の役目だろうが!
     あんたが知った真実なら、あんたが生きて、公表するべきだろうが!」

(’e’)「む、無茶を言うな……この、老体に、鞭打つようなことを……。
    ……確かに、自分勝手で、済まない……。 
    だが……これは……誰かがやらねば……。
    い、きろ……」

突然、腕の中の重みが増した。
思わず老人を床に落としてしまいそうになった。

( ゚∀゚)「……おい、これもまた演技なんだろうが……
     起きろよ……起きて、またいつもの説教しろよ!
     ジジイ! おいこら!」

上下左右に老人をゆすった。
だが体のすべての力をなくした老人は、もうまぶたすら持ち上げることはなかった。

221 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/26(日) 20:11:37.61 ID:TIdpdzbH0
( ´_ゝ`)「……ジョルジュ……」

(,,゚Д゚)「その爺さんはもう死んだ。俺たちも早く出るぞ」

ギコの容赦の無い一言は、ジョルジュの胸に突き刺さった。
信じたくない現実がそこにあった。
老人は、自分が世話になっていた上司が死んだ。
それも人の手にかかって。

老人を殺した犯人は分からない。
だがジョルジュの上司は、ある秘密を知ってしまったため、殺された。

( ゚∀゚)「……なんなんだよ、そりゃあ……」

( ´_ゝ`)「ジョルジュ、はやく!」

兄者がジョルジュの腕を掴み、無理やり立たせた。
茫然自失としているジョルジュは、まだかつての上司の亡骸を見つめていた。

( ´_ゝ`)「おい、行くぞ!」

( ゚∀゚)「……」

兄者に腕をとられ、ふらふらと歩き始めた。
ギコは先行し、あたりの気配を探っていた。
だがもう老人を射殺した男の気配はないらしく、ギコはすぐさま階段を駆け下りた。
二人もそれにならい、兄者はいまだ呆然としているジョルジュを引っ張って、
三人は外へ出た。

391 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 14:42:09.31 ID:yYz7JCr50
( ´_ゝ`)「……ジョルジュ……」

ビルから遠く離れた小さな公園のベンチにジョルジュ、兄者の二人が座り、
ギコは近所のコンビニから盗んできたジュースと軽い食事を採っていた。

( ゚∀゚)「……」

ギコが持ってきたジョルジュの食事分にも手をつけず、ジョルジュは考えていた。

これまで、自分が置かれていた状況というのは、ひどく非現実的なものだった。

この人生の中、何度か経験した震災とは程遠いこのニュー速を襲ったこの事件。
地震――それはあまりに大きすぎ、あらゆる人間、建物などを破壊した。
続いて電波障害――誰とも連絡は取れず、完全に本島とは隔離されている。
自分の見知る生存者の行方不明――
これが大きかった。兄者もギコもこの地震後に出会った人間だ。
その以前まで共に生きてきた会社の友人、隣人らの姿を一度も見かけていないため、
どうも現実感というものが欠如していたらしい。

393 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 14:51:24.39 ID:yYz7JCr50
震災後から今まで、あまりに急に世界が一変してしまったため、
現実味は失われ、ある種のゲームの中にいるような感覚があった。
だから百貨店に忍び込むだとか、自動販売機を破壊したりだとか、
日ごろの鬱憤をはらすような行動をしてきた。

だが、既知の仲の人間の死を目の当たりにし、それらはすべて消えさった。
彼は自分の腕の中で息を引き取った。
その命の消える瞬間の出来事は、まだ自分の手に残っていた。
自分の直接の上司が死んだことにより、今自分のおかれている状況を、再認識した。

そのせいで、急激に現実味というものがジョルジュの中に浮かび上がってきた。
これはゲームじゃない。
夢でもない。
ここにあるのは現実で、この手の中に残る人間の死も現実でしかありえない。

恐ろしくなった。
自分もああして死んでしまうのではないだろうか、と考えると、
自分の目の前は真っ暗になり、どこへ行こうともその闇から抜け出せず、
終いには突然足元にぽっかりとあいた終わりのない落とし穴にはまってしまいそうな、
そんな感覚があった。

395 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 14:59:27.61 ID:yYz7JCr50
じゃあここから動かなければいい。
このまま貝のように閉じこもり、探しに来てくれるかもしれない救助を待つのだ。

そうも考えた。
でもそれは結局現状からの一時的な逃避でしかなく、この現状の打開策というわけではなかった。
このままここにいたところで、VIP商事に着く前に聞いたギコの話だと、
この島はゆっくりとだが、確実に沈みつつあるらしい。
いつかはここも海の底へと沈んでいく。
そうしたら、こないかもしれない救助を待ち続けている自分は、結局助からない。

生きて行くためには、せめて緊急避難場所へ逃げるしかない。

だけれども、やはり目の前の闇に自ら足を踏み入れることが、ジョルジュにはできなかった。

398 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 15:19:36.80 ID:yYz7JCr50

( ´_ゝ`)「……」

ジョルジュが頭を抱えて考え込んでいるのを、兄者とギコは何もいわずに様子を見守っていた。
自分たちが何を言ったところで、最後はジョルジュ自身の決断を待つしかない。

ただ兄者は、ジョルジュが生を放棄した場合、頬をひっぱたき、
無理やりにでも連れて行くつもりだった。
見殺しにはできないし、何より付き合いは短いが、兄者はジョルジュを友人だと思っていた。
その友人が死のうとするのを、放っておけるわけがない。

( ´_ゝ`)「……ギコ、その書類は何なんだ?」

考え込むジョルジュをそっとしておくことに決めた兄者は、ギコにたずねた。

(,,゚Д゚)「お、おう。先生は図面だとかなんだとか言っていたんだが……」

自分のふところに入れておいた書類の束を取り出し、ぱらぱらとめくったが、
すぐにギコは目を閉じ、兄者のほうへ放った。

(,,゚Д゚)「読む気しねえぞ」

上部を大きなクリップで閉じられた書類を受け取り、兄者も目を通してみた。

( ´_ゝ`)「……これは島の全図……これは設計図か?
      それに……島の断面図……あとは……何語だこりゃ、独語かな」

一番最後の書類は、どうやらドイツ語らしき言語で書かれており、
自国語しか教養のない二人にはさっぱり読めなかった。

403 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 15:48:19.53 ID:yYz7JCr50
(,,゚Д゚)「……なんだってそんなもんが重要なんだろうな」

( ´_ゝ`)「さあな。でも、なんかおかしいぞ、この断面図。
       島を横からぶつ切りにしてるらしいんだが、
       ここ、地下に空洞がある。高さはあんまり無いが、横がかなりあるな。
       VIP商社のビルを二つ並べたくらいの幅がある」

そういって、図面にあるニュー速の地下を指差した。
ギコは横から覗き込むかたちでそこを見て、確かに、とうなずいた。

(,,゚Д゚)「つまり地下になにかあるってことか」

( ´_ゝ`)「まぁ、そういうことだな。老人の言ってた真実というのはこれのことだろうか」

(,,゚Д゚)「でもよ、ここが真実って、どういうことだ?」

( ´_ゝ`)「ここに何かがあるんだろ。
       ほらみろ、この空白からいくつか地上にラインが出てるだろ。
       これは多分、ここに行くための経路だな。
       どこに繋がってるかは……こっちの図面か」

連なった書類の束をいくつかめくり、ギコにも見えるように大きくめくった。
その図面は島を上空から見た全図で、極力地名や場所の名前を削ったものだった。
ただ、P1、P2、P3、P4とふられた地図上の点の傍の目印になる地名は記載されていた。

( ´_ゝ`)「P1……ポイントかな」

そうつぶやきながら一ヶ所一ヶ所指を動かし位置の確認をした。

404 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:00:15.38 ID:yYz7JCr50
P1はニュー速総合病院付近。
P2はニュー速の最西部に位置するニュー速空港付近の工場地帯。
P3は居住区と都市部の境界に流れる一筋の川のそば。ニュー速管理センターにあった。

そしてP4まで指を動かし、兄者は大きく目を見開き、体を震わせた。

その様子を見てギコは不審に思った。

(,,゚Д゚)「どうしたんだ?」

( ´_ゝ`)「……P4は、サスガ、ビル……」

ギコ、頭を抱えて考え込んでいたジョルジュ、そして当の本人である兄者も、
驚きの顔を隠すことはできなかった。

405 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:06:05.57 ID:yYz7JCr50
( ゚∀゚)「……どういうことだ?」

( ´_ゝ`)「俺が知るわけないだろ! 俺だって、うちの会社自体、
      うちの親族の人間が作った会社だってことくらいしかわからんのだ……」

吐き捨てるように兄者はいった。
その顔は頭上に疑問符を浮かべているのが目に見えるような表情だった。

(,,゚Д゚)「……まあわかんねえなら仕方ねえけどよ。
     で、元気になったジョルジュさんよ。あんた、どうするんだゴルァ」

急に話をふられ、一瞬ジョルジュは焦ったが、
少しばかりうつむいて黙りこくった末、ぽつりとつぶやくようにいった。

( ゚∀゚)「……正直、何がなんだかわからねえけどな……。
     この地震の謎だとか、なんでジジイがこの程度の図面で殺されたんだとか、
     それに、さっきの兄者の件だとか……」

( ´_ゝ`)「……」

406 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:07:13.98 ID:yYz7JCr50
( ゚∀゚)「……でもな、結局ここでじっとしてたって、何も始まらないんだよな。
     そりゃ危ないのはいやだし、死にたいわけでもない。
     俺の目の前で死んだ、あの女みたいにな。何も知らずに死にたくない」

そこでいったん切り、大きく息を吸った。
自分なりの精神集中だ。
吐き出す息とともに、言葉をつなぐ。

( ゚∀゚)「……俺は行くぞ。何にも知らずに死ぬのはごめんだ。
     多分もう何も知りませんってしらを切るわけにゃ、いかねえんだよな。
     兄者、お前もそうだろ?」

( ´_ゝ`)「……ああ」

小さいが、兄者は確かにひとつ、うなずいた。

( ´_ゝ`)「……そうだな。知らないと、寝覚め、悪いもんな」

( ゚∀゚)「ああ」

407 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:08:10.79 ID:yYz7JCr50
二人の言葉を黙ってきいていたギコが、残ったジュースをすべて飲み干しながら、二人に問うた。

(,,゚Д゚)「決心は固まったか」

( ゚∀゚)「おう、もちろんだ」

( ´_ゝ`)「この地震の謎とやら、解いてやることにするさ」

(,,゚Д゚)「そうか」

腕を組み、大きくうなずいた。

(,,゚Д゚)「じゃあ俺帰るわ」

( ´_ゝ`)( ゚∀゚)「……は?」

408 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:08:49.53 ID:yYz7JCr50
ギコの一言に、二人は思わず固まった。
当の本人はあっけらかんとしており、
当然のように兄者の持つ書類をひったくるようにして受け取り歩き始めた。

( ゚∀゚)「……いやいやいやいや! 何してんだよ!」

呆然としていたが、はっとし、全力で駆け寄った。

(,,゚Д゚)「何って、俺は別に知らなくてもいいしな。
    とりあえずこの図面さえ先生に渡しさえすれば、あとは救助待つだけだし」

悪びれた様子もなく、ギコは言い放った。
確かに言われればその通りであり、ジョルジュには何も切り返す術はなかった。

( ´_ゝ`)「おい、それはジョルジュが死んだ上司から受け取ったものだぞ」

兄者は去ろうとするギコの背中にいった。

(,,゚Д゚)「でもよ。これを手に入れるのを、お前ら協力してくれるって話だろ」

( ´_ゝ`)「そ、それは……」

確かに、ジョルジュはそういう話で取引をした。
だがあの時はここまで重大な事件に発展するとは思ってなかった。

409 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:09:45.71 ID:yYz7JCr50
( ゚∀゚)「……悪いが、地図だけでもいい。少し見せてくれ」

(,,゚Д゚)「ああ、別に返せって話じゃなけりゃあな。ほら」

ギコが何枚かの図面をジョルジュのほうへ見せた。
ジョルジュはそれを見ながら、ふところから取り出した手帳に
一瞬で同じような地図を描き上げた。

(,,゚Д゚)「は、はえーなゴルァ……」

ギコは驚き、唖然としていた。

( ゚∀゚)「これくらいしか芸がないからな。あと腕振るくらい」

(,,゚Д゚)「……とにかく、もう終わったんだな。
    じゃあ俺は行くぞ。相手はこの書類と図面を、ジジイを射殺してでも消そうとした奴だ。
    命を粗末にすんなよ。わざわざ助けた意味がねえからな」

( ゚∀゚)「ああ、かたじけねえ。
     まあ、お互い生きてたらいつか会おうぜ」

(,,゚Д゚)「いつかな」

ギコは振り向き、ニュー速グラウンドのほうへ歩き始めた。
それきりギコが振り返ることはなかった。

410 : ◆girrWWEMk6 :2006/03/28(火) 16:11:44.67 ID:yYz7JCr50
( ゚∀゚)「さてと」

( ´_ゝ`)「また二人か」

( ゚∀゚)「なんだ、俺と二人きりだと不満か?」

口を尖らせて、すねたようにジョルジュはいった。

( ´_ゝ`)「いや、気兼ね無くなったなってことだよ」

( ゚∀゚)「はは、まあな」

ジョルジュはまっすぐ自分の前にいる兄者に向けて握りこぶしを突き出した。
兄者はそのこぶしを小突くように、自分のこぶしと合わせた。
二人のこぶしに痛みはあったが、それは二人の共有する痛みだった。

そうして二人は歩き出した。
一路、サスガビルを目指して――。

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